A社で総務部長が、ある調査を行いました。
その調査とは、新卒社員の「定着率」です。A社は毎年数人から十数人の新卒を採用していたのですが、入社5年を経過した後も、まだ在籍する新卒社員は半分に満たない状況だったのです。しかも現状では管理職の大多数が「中途採用者」で、新卒採用社員は管理職になっていても、まだまだ十分には力を発揮できていないというのが現実だったのです。
データを見た社長は、しばらくショックで口がきけなくなったそうです。定着率の低さについては、それなりに実感していましたが、社内の中核を占める優秀な管理者は皆中途採用者だという現実に、想像以上の驚きを持ったようでした。
この課題について、かなりの時間のすったもんだを経て、一つの結論に至りました。
その結論とは、
中途採用者は何をするか「役割」を自覚して入社する一方新卒採用者には「役割自覚の機会自体が乏しい」ということでした。
つまり「こういう仕事で、こんな組織を、こういう方向に導いて欲しい」という期待を明確にして集めた中途採用者と「将来わが社を担って欲しい」という抽象的な期待で採用した新卒とでは、意識レベルそのものが違うということだったのです。
同社では急遽、社内業務の内容や期待される役割、あるいは管理職や役員になるための「業務や役職の道筋」などを整理し、どんな仕事をし、どんな責任を果たして欲しいかを事務職に至るまで明確にすることにしました。
期待される役割を明確化することでみえてきたことは、たとえば高齢者は体力的に落ちるが見識や丁寧さを有している、などという一般論では、なかなか活用イメージが湧きませんが、たとえば「こういう風に倉庫の在庫を管理して欲しい」という業務基準を明確にした上で人材に競わせ、その結果、時には若者が、時には高齢者がその役割を獲得するという「基本原則」を作り上げれば、高齢者の採用が企業の活力を低下させることはないはずだということなどです。
人材はいつまでも優秀とは限りません!
どんなに優秀な人材を集めても、自分の役割は何なのかが明確にならないまま数年経過すると、むしろ「問題児になる」ということもありえます。
しかも人材側でも、役割期待が見えにくければ、それだけ転職の動機を募らせてしまうのです。
長期デフレ化で不活性だった労働市場も、活性化の機運を見せています。優秀な人材を確保することも重要ですが、確保した人材を優秀にするという発想が、今、求められているのかも知れません。
人材はいつまでも優秀とは限らない
