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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

チーム本来の目的をきちんと見つめれば

経営

    ひとつの仕事を遂行するに当たって、人材の多様性がますます求められるようになっています。それは各々の仕事が複雑さを増して解決には多くの能力が必要になっているからです。また、インターネットの発達・普及によって遠隔地でのチーム作りも可能になりました。ただ、チームが求められるほど、それだけチーム作りの難しさも認識されるようになりました。

 現在、みなさんはどんな働き方をしているでしょうか。おそらくほとんどの方が、誰かと協力しながら、誰かの力を借りながら仕事を進めているのではないでしょうか。
 これは会社組織に属していればもちろんのこと、どんなに一人で仕事をしているように見えても、誰かとつながって仕事をしていることに変わりはありません。
 近年では、プロジェクトごとに初対面のメンバーが集合し、プロジェクト終了後には解散、また別のチームに合流ということも珍しくありません。
 チームで働く機会はますます増えています。

 チームビルディングとは、目的達成のために複数の人が集まり、一人ひとりの能力を活かす組織をつくることです。人事に関するポータルサイトを運営するHRプロが行なった「チームビルディングに関するアンケート調査」によると、チームビルディングの必要性を「非常に感じている」「まあまあ感じている」が8割を超えています。何らかの形でチーム作りに関心と必要性を感じていることが分かります。
 それではチーム作りに際して、考えるべきことはどんなことなのでしょうか。ある病院の救急救命科で起こった改革の事例です。

 A市は地域の中核都市のひとつです。二路線が乗り入れる駅もあるため、交通の要地としての役目を果たしており、駅前には大型の商業施設が立ち並んでいます。人通りが絶えることはありません。 
 この地にあるのがA病院です。歴史は古く、当初は内科と外科だけでしたが、需要に応えて今では総合病院となっています。近在の医療の中枢をなしているのがA病院です。
 ただし、A病院をもっとも特徴づけているのは、規模の大きさではありません。それは救急救命科の存在です。 
 救急といっても、患者の容態はインフルエンザのように比較的軽いものから、一刻が生死の境を分けるような重症のものまでさまざまです。
 当時A病院では、救急救命科をふたつに分けて治療に当たっていました。フロアの右半分を外科患者のチームが占めて、左半分をそれ以外の患者という振り分けです。
 これはA病院がかつて、内科と外科だけからスタートした名残だそうです。大雑把なようですが、一回のシフトでひとりのスタッフが平均で他のスタッフ10名と関わり合って治療をするのは、どちらのチームも変わりませんでした。
 その意味ではバランスは取れていたと言えるかもしれません。

 実際、救急救命科はうまく回っているように見えました。スタッフ間の連携も滑らかです。
 看護師もベテランになれば医師よりも年上ということは珍しくありませんが、若い医師はベテラン看護師に敬意を払い、指示も丁寧です。そうした雰囲気はチーム全体を包んでいました。
 しかし、問題がなかったわけではありません。上記の様子は、あくまでスタッフの視点で救急科をみたものです。患者側の視点でみてみると、様相は一変します。
 とにかく待ち時間が長いのです。平均すると患者は救急救命科に8時間も滞在していることになりました。
 待ち時間への不満の声が大きくなるにつれて、病院内でも改革の必要性が認識されていきました。改革の責任者に選ばれたのが副院長のA医師でした。父親が院長を務めており、A医師は40代半ばでしたが次期院長と目されていました。
 院長としては、ものごとを変えるには若い世代に期待したいという気持ちもあったようです。

 A医師は改革に着手するに当たって、まずは救急フロアの様子を付きっきりで観察することに努めました。初日には「あれ」と思うだけでしたが、数日後にはそれは確信に変わりました。
 救急科は忙しい割に、何をすればよいか分からずにオロオロするスタッフが目立つのです。その理由は各人に役割があるようでいて、実はその定義がかなり曖昧だったからです。
 一方で役割が曖昧であることは、チームに柔軟性をもたらしていました。看護師は一人何役もこなします。ある患者の血圧を計っていた直後には別の患者の包帯を巻いているという具合です。
 役割が曖昧だったから取れる行動でした。

 A医師は明確な役割分担を取るか、チームの柔軟性を取るかの二者択一を迫られました。現状の柔軟性を取れば待ち時間の問題は一向に解決できず、改革して役割分担を取ればチームが崩壊してしまう恐れがあります。
 さらにA医師には、気になったことがありました。たしかにチームの雰囲気は悪くありません。しかし、チームの和を重んじるあまり言うべきことを言っていないように感じられたのです。お互いに気を遣いすぎているのです。
 そのために指示にも余計な時間がかかり、待ち時間の長さの原因になっているのは明らかでした。
 何が最善かA医師は考え、出した結論は、チームを一から作り直すというものでした。
 現チームに欲しい一つの要素を取る代わりに、もう一方を捨てることを選びませんでした。二つを両立させようと考えたのです。同時に、より緊張感のあるチーム作りも目指しました。
 その手法とは、チームを小分けにすることだったのです。
 組織再編後、二つのチームは医療機器と治療スペース、コンピュータを備えた10のユニットに分割されました。各ユニットのメンバー構成は、リーダー医師が一人、サブ医師が二人、主任看護師が一人、サブ看護師が二人というものです。

 この編成は各自の役割を明確にしました。A医師はこのチーム分けの意味をスタッフに説明を重ねました。
 明確な役割分担はスタッフ同士が余計な気を遣わないためでもある、と。
 何より優先すべきは診療時間の短縮化であり、それは患者の安全と病院経営の安定化をもたらす。そこではスタッフが過剰に気を遣い合う環境はむしろ害悪であるとまで言い切りました。
 ユニットはシフト制のため、メンバーが固定されてはいませんが、それぞれの役割は固定されています。目の前の患者に集中することができ、あっちへ行ったりこっちに行ったりの余計な動きがなくなりました。
 また、以前は医師が「この患者の看護師は誰だ」と声をあげる場面がありました。今は、ユニットに所属し、役割が明確で、目の前の患者だけに向き合っていますから、そんなムダな問いかけもなくなりました。

 A病院の救急救命科の待ち時間が減ったのは言うまでもないことでしょう。これはA病院全体で、チームの目的を正確に共有した成果だと考えられます。
 チームの目的は、人間関係に波風を立てず仲良く過ごすことではありません。人間関係を重んじるあまり、余計な気を遣い、言いたいことも言えないチームも少なくないようです。
 無論、仲が良いのに越したことはありませんが、目的はその先にあるはずです。高い成果が質の高い人間関係を生むという見方もできます。チーム本来の目的をきちんと見つめれば、チームに足りないもの、余計なものが見えてくるのではないでしょうか。

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