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赤坂の社労士事務所

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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

「付加価値化」他社に抜きんでる種はどこにでも潜んでいる

経営

 会社が生き残り、かつ成長していくためには他社と同じことをしていてはおぼつきません。類似の商品・サービスは世に溢れています。顧客に自社製品を選んでもらうためには、他社に抜きんでた決め手が必要です。それが付加価値と呼ばれるものです。ただ、そんなことはどの企業だって分かっています。分からないのはどうしたら付加価値を生み出せるかです。

 これだけ商品・サービスが充実した社会に生きていると、企業は他社との差別化が生き残りのカギになります。同じような商品・サービスはたくさんあるのですから、他社より一歩でも抜きんでなければなりません。
 消費者も、どの商品・サービスを選べばいいのか迷っています。多くの選択肢の中から自社のものを選んでもらうには決め手が必要です。
 その決め手の別名こそが付加価値です。そのことは企業も十分に承知しているはずです。
 顧客に選んでもらうための付加価値はどのように生まれるのでしょう。

 A社の歴史はとびきり古いわけではありません。会社としての体裁を整えてから20年ほどだそうです。しかし、今では食肉卸の業界で飛ぶ鳥を落とす勢いです。
 もともとA社は日本国中の商店街で見ることができた鶏肉専門の小売店を家族で営んでいました。モモ肉、ムネ肉、ささみといった具合に部位ごとにショーウィンドーに並べて日々の商いを続けていました。
 日本のどこにでもあった光景は、日本のどこにでもあった事情によって破綻の危機を迎えました。
 大手スーパーが近所に出店したことによって商店街の人の流れがガラッと変わったのです。
 やはり「ワンストップ」の魅力は絶大でした。肉、魚、野菜等これまで商店街のあちこちの小売店で買っていたものが、スーパー1軒で間に合うとなれば人はそっちを選びます。
 各小売店より価格が安いとなればなおさらです。家族経営だったA鶏肉店はひとたまりもなく、わずか一年の間に売上はかっての10分の1にまで落ち込んだのです。

 そうした状況で呼び戻されたのが、大学を卒業して商社で働いていた長男Aさんでした。
 Aさんは大いに悩みましたが、結局は家業を継ぐことにしたとのことです。家族の危機でしたし、自分の社会経験で家業を立て直してみせるとの自信もそこにはありました。ところが、まったく違う商売が待っていたのです。
 A社長が実家に戻って早速やったことは「常連リスト」を作ることでした。二日に一遍、三日に一遍と店で買い物をしてくれるお客さんの顔を一人ずつ覚え、彼らの情報をエクセルでリストにしたのです。
 すると、常連と呼べるお客さんはたったの32人しかいないことがはっきりしました。売上がかっての10分の1にまで落ち込んだのも頷けます。

 商社時代、A社長はスケールメリットを活かした商売をしていました。大量に仕入れて安く売る。しかし、A鶏肉店の顧客数は数えるほどで、そのすべてが家庭の主婦でした。大量に仕入れたところでさばけるはずがありませんでした。
 ある程度の自信があって戻ってきたA社長ですが、それは見事に打ち砕かれました。結局、A社長にできたことは、同じ商店街で飲食店を営む店主たちに一軒一軒「うちの肉使ってくれませんか」と尋ね歩くことだけでした。
 A社長が子供のころには遊び場にしていた商店街ですから、顔馴染みの店主たちが半ばお付き合いで注文してくれたようです。
 徐々に売上は上がっていったそうですが、情にすがるような商売しかできない自分が情けなくもありました。

 当時、時間はたっぷりありましたから、A社長は新規の取引を始めてくれたお客さんのところへまめに顔を出すようにしていたそうです。せっかくできた関係を大切にしようとA社長は必死でした。
 しかし、だからといってこれといった話をするわけではありません。世間話程度のものです。そんなことを日々繰り返していると、思わぬ話を持ちかけられました。
 それは商店街でも古株のラーメン屋さんからの要望でした。鶏のチャーシューに向いた鶏肉を持ってきてくれというのです。
 この店にはサイドメニューの鶏の唐揚げ用の肉を納めていました。肉を変えて評判が良かったこともありましたし、新しいメニューも試したいというところからの注文でした。
 ただ、試行メニュー用のものですから、注文は小ロットでした。正直言えば、A社にとってほとんど利益にはならない注文でした。それでもA社長はこの注文を受けました。
 もし断るとしたら、自分の利益にならない仕事だからということだけでした。しかし、それを理由に断ることはA社の財政状況が許しませんでした。

 こんな肉じゃない、もっと脂がさっぱりした肉はないか、いや違う、煮てもしっとりした味わいが残る肉が欲しいんだ。
 ほとんど利益にはならないけれど、ラーメン屋さんと一緒に試行錯誤しているうち、A社長にある気づきがありました。
 小さい店だけどこだわりがある。小さい店だからこそこだわりを持たなければやっていけないという発見です。
 しかし、そのこだわりを叶えることは容易ではありません。鶏肉一つとっても、店ごとの細かな注文に応じてくれる卸業者は数少ないからです。
 そうした視点で顧客を回ってみると、言い出せなかった細かな要望がたくさん出てきました。
 利幅は小さいけれど、A社長はそれら細かな注文にひとつひとつ応えていきました。それができたのは親の代から何十年という鶏肉小売の足場と商店街という立地にありました。
 近所の店がくれる小口の注文に配送料など取れません。だけどそれをするから信頼が厚くなることをA社長は実感していました。

 A社長の飛び込み営業は続きました。ただし、それは地元の商店街を飛び越えたものでした。小さな店には声に出せないニーズがあるという確信から生まれました。
 そして、それは自分の足で回ってみて真実だと分かりました。個人経営の飲食店からこだわりを実現しようとしても、小口だから仕入れがままならないという状況を聞き、その要望に応えていくというこれまでのやり方を踏襲しました。
 しかも、配送料は取らないのも同じです。しかし、それを可能にするにはA社側になんらかの工夫が必要でした。それでないと商売として成り立たないからです。

 こんな当たり前のことを実現するために、A社長がしたことは一軒注文を取った周りの店からも、どんな小ロットでもいいから注文を取ることでした。
 もちろん新規注文のためにその店なりのこだわりを丁寧に聞き取って確実に応えました。そうして点の顧客を面の顧客に変えていったのです。
 一軒だけの配送なら足も出ますが、その周辺に顧客を固めることによって効率性を高めたのです。A社長は面の顧客を他のエリアにもどんどん拡大していきました。
 小さな店のこだわりはA社の工夫によって実現されたのです。

 企業として大きく成長したA社は、今でも例えばベーコンの注文は店ごとにミリ単位の厚さで応えます。注文はネットでもFAXでも電話でも受け付けます。商品開発も一緒にやります。
 どんな顧客にも叶えてほしいニーズがあります。それを実現できれば付加価値ですが、それには叶える側の努力が必要です。
 付加価値の可能性はどこにでも転がっているのです。
 それを付加価値にできるかどうかは供給側次第です。付加価値は付加価値にする努力と工夫があって付加価値となるのです。

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