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赤坂の社労士事務所

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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

中小企業の特質をうまく活用しよう

経営

 会社は大きく分けて「大企業」と「中小企業」に分類されます。それは一般的に資本金の額や従業員の数を基準にしています。
 しかし、それだけでは計れない大企業と中小企業の別が存在します。一般に大企業のほうが資金が潤沢で安定しているから生きるのに有利という認識があるようです。たしかにそれは大企業の有利な点かもしれませんが、中小企業にも大企業にはない美点がたくさんあります。

 世の中には大企業と中小企業という区別が存在します。中小企業基本法では、資本金や従業員数によってどんな会社が「中小企業者」にあたるかが定義されています。
 業種によって、資本金や従業員数の基準は違ってきます。
 しかし、こうした法律上の定義や基準は、実際に働いている場ではそれほど認識されてはいません。
 実際に、働く当人が大企業と中小企業を区別するのは、大企業で働くほうがいろいろと有利といった漠然としたイメージです。
 ただ、この個々人の漠然としたイメージは、一方で驚くほど確固たるイメージとして日本人全体に浸透しているのです。
 たしかに、大企業で働くと安定、高収入、ステータスなどが得られると一般には信じられています。しかし、今ほど働き方や価値観が多様化してくると、大企業、中小企業の有利な点、不利な点を数え上げるだけでは足りません。むしろ今するべきは、それぞれの特性を改めて確認することではないでしょうか。

 A社は測定器の製造販売をしている会社です。
 設立当初は長尺ノギスや巻尺といった測定器を主力商品としていましたが、時代の流れとともに商品ラインナップは最新の光学理論を利用した精密機器にまで幅を広げています。
 A社を地域の会社から世界と取引する会社へと発展させたのは二代目の功績が大きかったそうです。二代目の特質を一言でいえば、先見性があるということです。
 創業社長の跡を継いでまだまだ会社の基盤も自分の社内での立場も定まっていなかったころから、二代目は最新の技術と知識を手に入れるための投資を惜しまなかったそうです。
 はじめは訝しげに見ていた社員たちも、徐々に注文が増え出して、オリジナルの機械まで手掛けるようになると、A社は二代目を中心に一丸となっていったといいます。

 二代目には3人子供がいますが、大学を卒業した長男AさんにA社と規模が同じくらいの会社への就職を勧めたというのも、今にして思えば二代目の先見性のなせる業でした。
 二代目は早くから長男に会社を継いでほしいことを伝え、本人も納得したうえで、ふさわしい大学選びもしたそうです。
 そうして彼が就職したのはまさにA社とほぼ同規模の専門商社B社でした。二代目は他人の飯を食うと同時に、中小企業の経営の何たるかを知ってほしかったのだと思います。
 AさんはB社で多くの経験をしました。買い付けのノウハウ、交渉の仕方などもここで学びました。しかし、最も印象に残っているのは先輩社員Bさんとのやり取りでした。
 Bさんは40代なかばで営業部長を務めており、将来はB社の幹部になるだろうと目されていた人物です。部下から慕われており、Aさんも可愛がってもらった一人です。
 よく飲みにも連れていってもらいました。ただ、そうした機会があまりに頻繁だったので、Aさんは「いつもいつもご馳走になってしまってすみません」と言ったことがあるそうです。
 B営業部長の返答はAさんの予想外のものでした。
「俺は給料の半分を部下から貰ってるから当たり前だ」

 B部長の仕事を端的に言えば、社長が意図する方針を汲んで自らが率いるチームの経営資源を全体最適に配分することです。
 直接に利益を生むのは部下たちであり、だからB部長は「給料の半分は部下から貰っている」と考えていたそうです。
 こんなふうに考えられるのも、B社が経営者あるいは幹部と一般社員の距離が近い中小企業だったからかもしれません。
 こうした経験を経てAさんはA社に入りました。それから5年、様々な部署で経験を積み、社長に就任したという経緯があります。
 すると、二代目がいたころは気にならなかった物足りなさを幹部社員に感じ始めたのです。

 A社の幹部社員はすべて二代目が指揮をとった初期から在籍している人たちです。もちろんA社の業務には精通していますが、それ以上ではありませんでした。
 A社長にしてみたら、幹部社員ともなれば経営者と同じ目線で会社をみてほしいのに、それができていません。また、自ら動くという意識がないのも不満でした。
 こうした状況を打開しようと考えたとき、A社長の頭に真っ先に浮かんだのは商社時代のB部長でした。正直にいえばB部長に自分の右腕になってほしい。しかし、BさんはB社にとって重要な人材。義理が悪いのは重々わかっています。
 いろいろと事情が重なってBさんはA社に来てくれることになりました。肩書は専務取締役で、各部署を統括する立場です。
 もちろん反発はありましたが、A社長の思惑以上の働きをすることで周囲を黙らせました。来て3ヶ月で新たな取引先を開拓したのです。

 ここからA社長とB専務の二人三脚は始まりました。まずは幹部社員の意識改革です。 A社長の目的は彼らに経営者目線と自律性をもってもらうことでした。
 そのためにA社長は幹部に対して、自分がもっている情報はすべて公開することを宣言しました。わざわざ宣言したのはB専務の提案です。
 幹部社員と言えども経営者目線をもつのは難しいことです。経営者ではありませんし、経営者と同じだけの情報をもっていないからです。
 経営者目線とは会社を俯瞰で見ることでしょう。ただ、そうするには相応の情報が必要で、新たな情報によって視野が広がるとA社長は考えたのです。
 また、情報公開宣言、そして実際にそうしたことは自律性にも密接に関わっていました。幹部社員がこれまでは知らなかった情報に触れることで新たな思考が刺激されたようです。

 それはそうです。自分が勤める会社に関して新たに知ったことがあって何も考えることがないというのはまずないでしょう。わざわざ宣言されれば尚更です。
 A社長は並行して幹部社員の人事異動にも取り組みました。というのも、A社の幹部のほとんどが先代からの古参社員です。二代目のリーダーシップが強烈だったために、その多くがイエスマン化しているという弊害が見られました。
 なかでも品質管理部門の長を務めていたCさんが問題でした。先代に心酔しており、その分だけA社長が新しいやり方を提案してもことごとく反対するのです。「これでうまくやってきた」の一点張りです。

 それからというもの、A社長はCさんを含めた幹部社員との面談の時間を定期的に持つようにし、その面談を通じて、会社の未来像、若手人材の育成方針などを話し合ったといいます。こうした改革を通して、幹部社員の意識は変わりつつあります。
 A社の改革は途上ですが、ここには中小企業の特質がよく表れています。「会社は良くも悪くも経営者次第」の傾向が大企業より強く出るということが第一に言えます。また、本気になれば一気に改革が進むというのも中小企業の特質であることもわかります。

 A社は二代目のカリスマ性が強かった分、幹部のイエスマン化という弊害が強く出たのでしょう。それは、柔軟性という中小企業本来の美点を失わせていました。
 中小企業の柔軟性とは、大企業に比して仕事が細分化、専門化していないところに由来します。ときに自分の守備範囲を超えて仕事をすることは大企業では体験できない貴重な経験になります。任せられる範囲も広く、個人に与えられる責任も大きくなりますが、それは仕事から得られる喜びの実感にも繋がりやすいはずです。
 さらには経営者と社員の距離が近く、良くも悪くも会社全体が経営者の考え方の影響を受けやすいのも中小企業の特徴です。これらの特質をどう扱うかは経営者次第です。

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