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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
整備、評価・処遇制度の構築など、人に関わる分野から経営を
サポートいたします。
社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

潜在的な人材をどう採用するか

人事・労務

  働き方改革の掛け声のもと、長時間労働の風潮が是正され、残業禁止、仕事の持ち帰り禁止、テレワーク推進など、従業員が会社に滞在する時間が短くなり、自由になる時間が増える傾向にあります。
 一方で、大幅な賃金上昇が見込めない上、残業代が減少しているため、副業で収入補てんを望む人も増えています。
 また、「一億総活躍社会の実現」を背景に、女性やシニア層の活用を進める機運が高まっていること、様々な働き方をする社員を受け入れるために仕事の棚卸を行った結果、仕事の一部を外注することが可能になったという企業の事情があります。
 これらの事情は、仕事を探す側にとってはチャンスです。
 スマートフォンの普及により、個人が隙間時間で情報を得たり発信したりすることが簡単になりました。
 現在はさまざまな価値観が尊重される世の中です。働き方にも多様性が求められています。社会状況の変化によって、これまでのスタイルに固執しては働きたくても働けない人が増えてきたからです。
 これは会社側にとっても同様です。過去のスタイルに執着すると十分な人材が確保できない恐れがあります。

 A社は老舗の醤油醸造メーカーです。昔ながらの製法にこだわっています。
 木樽でもろみを熟成させ、3年間もろみを呼吸させるためにかき混ぜ続けて発酵を促し、醤油になるのをひたすら待つというやり方だそうです。
 もちろん、醤油の味は折り紙つきなのですが、それだけでうまくいくわけでもないというのが商売の難しいところです。
 A社は卸売とともに小売もするそうですが、売上は年々右肩下がりです。
 A社の問題は売上が上がらないということだけではありませんでした。もうひとつの大きな問題は、人手が足りないということでした。
 A社の場合、会社の業態的にも規模的にも、毎年社員を新たに採用する必要はありませんでしたし、そうすることもできませんでした。
 ひとり辞めればひとり雇う。そうしたやり方を長年してきましたが、補充が思うようにできなかったことが続いた結果、A社はいつの間にか慢性的に人手が足りない状況になっていたのです。

 とにかく人手不足を解消しようと、A社は各種求人に募集をしました。応募はたくさんあったそうです。優秀な人材もたくさんいたようですが、すべて採用には至りませんでした。
 働く条件面で合意に達しなかったからです。
 A社は仕込みの繁忙期となれば、朝早くから夜遅くまで作業が続きます。職人ではなく一般職でも、その時期にはサポートが求められ、勤務時間は9時~5時とはいきません。
 その条件に応えられる人はいませんでした。
 A社長はこの事態を打開するために頭を悩ませましたが、なかなか妙案も浮かばないまま月日が過ぎていきました。
 その日は営業先での商談を終えて、次の約束までのわずかな間に昼食を済まそうと、A社長はコンビニに寄りました。
 入口脇に貼られた求人広告に何気なく目を向けると、そこには「明るく元気な人募集」と謳われていました。
 A社長は「どこも求人は大変だな」と思ったそうですが、その下に書かれていた勤務条件が目に入ると、ハッとしました。
1.7:00~12:00 2.12:00~17:00 3.17:00~22:00 4.22:00~5:00
 これがコンビニの求める勤務時間でした。

 さらに求人広告の末尾には、「他の勤務時間も応相談。週2日から勤務OK」と付記されていました。
「こんな働き方をうちでもやっていいんじゃないか」というのが、A社長が瞬時に感じたことでした。
 思い返してみれば、スーパーなどでも同様の求人広告を見たことがありました。レジ打ちを中心に、惣菜づくりや品出しなどの仕事をパート従業員が受け持っていることも知っていました。
 しかし、そうした働き方を自分の会社にもってくるという発想は今までなかったのです。

 A社長は、数多くの応募がすべて採用に至らなかった原因がここにあるような気がしました。応募の多くは、主婦などの働く日数や時間に制限のある人達が大半でした。彼女達の多くはパート従業員として、生活とのバランスがとれる働き方を求めます。しかし、今回A社が求めたのは、1週間のうち3日以上、フルタイムで働いてくれる人材です。加えて、仕込みが忙しい時期には早出、残業だけでなく土日出勤も求めることになります。この就業条件では、いくら働きたくても彼女達が合意をすることは難しかったのです。

 A社長は、1人の従業員がフルタイムで働くことに拘らず、9時~17時までを何人かのパート従業員でつないで、フルタイムと同等の就業時間を確保することを決めました。
 ただ、思い付いたのはいいのですが、働く曜日と時間帯を調整してパート従業員を採用するのは、そう簡単なことではありません。これまでの採用活動で、パート従業員の働きたい時間帯が集中するのは、A社長も知っています。以前と同じように、闇雲にパート従業員を募集するのではなく、ある程度的を絞った採用活動が必要だということも理解していました。

 A社長はこれまで、結婚、出産によってA社を退職していく女性を多数見送ってきました。一段落したら戻ってきてほしいとも思っていました。しかし、子育てをする家庭にはそれぞれの事情があり、会社にもそれぞれの事情があります。そして、彼女たちが働きたくても働けない状況があるのを何となく聞いていました。そして、まさに今回A社が採用しようとしているのは、彼女達のような人材でした。 
 A社長は以前より募集要件を大幅に緩和して、週に2日以上、一日の勤務時間は3時間以上としました。ただし、単にこの条件で募集しては、曜日と時間帯が集中してしまう恐れがあります。

 A社長は、曜日、勤務時間は要件の通りだが、勤務の時間帯に幅を持たせてるようにしたのです。
 すなわち、一口に子育て世代と言っても、子供が生まれたばかりの家庭と保育園・幼稚園に通っている家庭、あるいは小学校や中学校に通っている家庭では、事情がまったく違います。
 ただし、A社として譲れなかったのは、それぞれの応募者の事情を考慮しつつも、同時に会社の事情も考慮することです。それを両立するために、A社長は勤務時間を細切れにしたのです。
 例えば、7時から10時まで働く人、10時から15時まで働く人、15時から19時から働く人。一日のうちパート従業員が働く時間帯が集中しないような募集をしたのです。
 これは会社の都合ばかりのように映るかもしれませんが、実は違いました。朝は忙しいから無理だけど、夕方からなら働けるという女性もいれば、その逆の女性もいました。
 調整の結果、月曜日から金曜日まですべての時間帯がパート従業員で満たされたそうです。

 さて問題は、その成果です。現在、A社にはこれまでいなかった商品開発チームのリーダーをパート従業員が務めている事実が、A社の手に入れた成果を物語っています。
 ただ、パートタイムを従来と違ったやり方で活用するには、採用段階から、そして教育面においても、他の社員やパート従業員との連携が不可欠であることを明言する必要があるでしょう。
 働きたくても働けない主婦はたくさんいます。働いてほしい会社もたくさんあります。
 もっと発想を柔軟にしてみたら、人材獲得の機会が増えるのではないでしょうか。

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