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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

「物語構築」自社の魅力の棚卸をしてみる

経営

 顧客の興味や関心を惹きつけてやまない魅力的な会社には、魅力的な物語があるものです。その魅力的な物語が既存顧客の心を打ち、さらなるロイヤルティーを生むばかりか、あらたな顧客獲得という好循環にもつながります。
 しかし、そんな物語の存在は、歴史のある会社や、大手の会社のものであって、「うちにはそんなものはない」と考える経営者が少なくありません。そんなことはありません。会社の魅力に最も気づいていないのは自分たちということもあるのです。

 現在、世界中の多くの人にとってパソコンは仕事上欠かせない道具になっています。パソコンというと、日本人がパッと思い浮かべるのはウィンドウズかマックでしょう。
 世界でのOSのシェアを比べてみると、ウィンドウズが圧倒的です。
 それでもアップル社製品の人気は高いのです。
 ではなぜ、人はアップル製品を使い、アップル製品が好きなのでしょうか。
 マックを選ぶ主な理由は、「デザイン、見た目が良い」「洗練されたOS」「アップルのイメージが良い」などです。
 アップルには逸話があります。創業者スティーブ・ジョブズは新製品の最終チェックの場で作り直しを命じたことがあります。
 製品内部に隠れた基板の配列が美しくないというのが理由です。
 これは、人気の高さを裏打ちするようなエピソードです。その企業を象徴するような物語の存在は、企業の魅力を鮮明に打ち出してくれます。

 A社長はその日、商談を上首尾に終えたので、今日のランチは少し贅沢にしようかなという気分になっていました。
 取引先のビルを出たA社長の目には、イタリアンのセットメニュー、高級中華のミニコース、天ぷら定食にうな丼等々、よだれが出そうな看板が次々に目に入りました。
 決めかねながら歩いているA社長が目を留めたのは、「近大マグロ」の文字でした。
 クロマグロの完全養殖に世界で初めて成功したとして、A社長はその名前を記憶していました。

 その日のA社長のランチは近大マグロに決まりました。
 近畿大学で完全養殖されたクロマグロ、シマアジ、マダイ、ブリ、和歌山県産の食材を含めた前菜7種類の竹籠に、近大マグロと選抜鮮魚の握り寿司がつくメニューでした。
 それぞれに趣向が凝らされた料理に夢中になっていましたが、一息ついてふと周りを見渡してみると、いつの間にか店内はお客さんで一杯になっていました。
 その光景を見たA社長が抱いた感情は、「羨ましい」というのが率直なところでした。
 というのも、店内を埋め尽くすお客さんたちは、自分と同じように近大マグロの物語に惹かれてやってきたのだろうと推測できたからです。

 A社長が近大マグロを知ったのは、テレビのドキュメンタリー番組でした。
 なんでも、近畿大学でマグロの養殖に着手したのは1970年だそうで、完全養殖に成功するまで実に30年以上もかかっています。
 その過程においては、人工孵化した稚魚が大量死してしまったり、共食いがあったり、光量のわずかな刺激から壁への衝突死が起きたりと、試行錯誤の連続だったそうです。
 そんな苦労の末に成功したクロマグロの完全養殖ですから、いま目の前にある中トロの握りが特別なものに見えます。

 さらに、近年のクロマグロを対象とした漁獲制限の動きについてもA社長は知っていました。
 ですから、近大マグロの開発は資源維持と安定供給からも意義深いもので、そういうことが相まって尚更ありがたく感じ、味が増したのです。
 そうした事情がA社長には分かっていて、その上で「羨ましい」との感想を抱いたのは、A社長が食に関わる会社を営んでいたという共通点があったからかもしれません。

 A社は弁当の製造・販売をする会社です。会社から注文を受けて配達するまでを行なうのが主な業務です。
 創業は日本がちょうど高度成長期を迎えた時期で、人手を確保するのに大変苦労したそうです。どこもかしもが人手不足で、そのころ好んで弁当屋に就職する人などいなかったからです。
 A社長はどうしたかというと、地元でなじみの悪ガキたちに声をかけて引っ張ってきた
のです。
 そして彼らがまた知り合いの悪ガキを誘い、そうやって当時、人手を確保したのだそうです。

 寄せ集めと言われても仕方のない顔ぶれでしたが、何しろ日本の経済が急激に伸びていた時代です。弁当の宅配需要は多く、時流に乗ってA社は大きく成長したのです。
 しかし、昨今は同業他社が割拠しています。売上は伸び悩み気味で、そんなことからA社長は顧客を惹きつける物語をもつ近大マグロを羨ましく思ったのです。
 自分たちの会社にも何か物語がないものかと考えましたが、どうやらなさそうです。悪ガキの寄せ集めで会社が始まったという話など、昔の武勇伝を聞かされるようなものだと感じていました。

 そんなことを考えながら日々を過ごしていたA社長ですが、ある日のこと、付き合いの長い取引先の経営者と会食する機会があって、近大マグロの物語、引き比べた自社のことを話したら意外な反応が返ってきました。
「A社は物語の宝庫じゃないか」
 社交辞令だろうと受け流そうとしましたが、彼の真剣な顔つきを見ると、そうでもなさそうです。


 

 旧知の経営者が話したのはこんなことです。

 A社の弁当の売りは、何より弁当の高い品質と安い値段です。
 A社の提供する弁当は、今どきは450円(税込)です。昔はもっと安価でした。しかし、安かろう悪かろうではありません。旬の食材と肉・魚・野菜の栄養バランスを重視しており、10種類以上のおかずが詰まっています。
 この値段でこの内容を実現できているのは、日替わり弁当の種類を一つに絞っている
からです。
 といって、顧客を飽きさせはしません。A社の日替わり弁当は2か月間、毎日毎日中身が変わります。
 また、A社の弁当の安価高品質を支えているのは、これだけではありません。
 廃棄率の低さがそれです。
 A社の場合は0.1%です。1000個作って1個がムダになる計算です。
 これは精度の高い注文予測によってなせる業です。注文は当日の9時から10時まで電話かFAXで受け付けます。
 担当者はその日の注文状況を刻々見極め、加えて時期や天候、気温なども考慮した上で、最終的な数を調理部に伝えます。

 さらに廃棄率を低くする工夫は配送の現場でもなされています。遠い地域向けの車は、注文が殺到する中、弁当を大目に積み込み、通常の配送車よりも早く出発します。
 そして、近場の配送先で予測と実際の注文数に誤差が出ると、配送車同士で弁当を融通し合います。それでも足りなければ、本社から応援の車が出ることもあります。
 また、A社は早くから再利用のため返却・回収をするリターナブル弁当箱を採用しました。コスト削減にはなりますが、毎日回収しなければなりません。ただ、顧客との接点は増え、どんなおかずが残されているか、貴重なデータを蓄積できます。それをメニュー改善に生かすことで、リピート率の向上につながりました。

 このようなA社の儲けの仕組みは、実はA社長と負けん気の強い元悪ガキたちが作り上げてきたものでした。
 会社の魅力は外の視点からものであって、自分たちにとっては当たり前のことで、なかなか気づかない場合もあります。
 どんな会社にも物語はあるものです。物語があれば内部の結束は高まり、外部へ有効なアピールができます。
 一度、自社の魅力の棚卸をしてみてはいかがでしょうか。

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