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赤坂の社労士事務所

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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

指示待ち社員を作っているのは上司

人事・労務

 上司が部下に対して抱く悩みは尽きません。何度教えてもなかなか覚えない、自分で考えて行動するという自発的な態度が見られない、上司の指示に反して勝手な判断をし、現場を混乱させてしまう。
 もちろん、これらは上司からすると悩ましい限りです。しかし、そうした部下の行動の原因を、全面的に部下に帰すべきなのでしょうか。もしかしたら、上司が部下をそうした行動に追い立てている恐れさえもあります。

 そんなことしてはダメだと分かってはいても、つい大きなため息を漏らしてしまいます。A課長の気持ちも分からないではありません。何しろ、部下であるBさんが前に教えた仕事の手順を訊きに来たのはこれで3回目なのですから。
 それでいてBさんには、まるで悪びれる様子は見られません。もしかしたら、自分が以前にも同じ質問をしていることさえ覚えていないのかもしれません。
 A課長は内心の苛立ちを懸命に抑え、「前にも教えたぞ」とできるだけ平静を装った声で伝えます。でも結局、また同じことを一から教える羽目になるのです。

 こんなやり取りを繰り返すのは、相手がBさんばかりではありません。もちろん、部下によって態度は違います。自分が過去に同じことを訊いていると自覚している者もいます。
 申し訳なさそうに言い訳にもならない言い訳を口にしながら、「すいません」を連発します。それでも、以前に教えた仕事の進め方を覚えていないことに変わりはありません。
 態度は違っても本質は同じなのですから、A課長のすることも変わりません。怒鳴りつけたい気持ちを押し殺して、最初から手順をなぞり返すというわけです。

 A課長の悩みは尽きません。部下のなかには、いわゆる「指示待ち社員」もいるようです。
 言われたことはそつなくこなすのですが、A課長が指示を与えない限り、自分から動こうという姿勢はまず見られません。
 いかにももどかしく、「どうしてなんだ」という思いをもってはいるのですが、A課長から何か働きかけるということは今はもうありません。
 半ば諦めてしまっているということでしょう。

 A社は食肉専門の商社です。そのA社の中で、A課長が所属するのは経理課です。世界中と取引しているために為替の動きには敏感にならざるを得ない部署です。
 為替リスクを予測しながら、どの時期にどの国の業者とどの食肉を取引するべきかといった高度な判断も要求される部署です。
 自分の仕事をこなすだけでなく、部下の教育・指導という上司の役目を果たす日々で、A課長が唯一の楽しみにしているのが夕食後の読書です。
 特に歴史ものが好きなようです。その夜、たまたまA課長が選んだのが、「三国志」でした。
 読み進んで開いたページは、蜀が魏を攻めるいわゆる北伐の場面を描いたものでした。
 蜀軍は緒戦こそ戦いを有利に進めていましたが、「街亭の戦い」で敗北。それを機に撤退を余儀なくされ、ついに北伐は失敗に終わるのです。
 その「街亭の戦い」で現場の指揮を執ったのは馬謖です。司令官の孔明は馬謖に対して、決して山上に布陣するなと厳しく言い渡していました。のみならず、孔明は自分が考える最高の陣形を馬謖に事細かに説明し、寸分も違うことなく陣を整えるよう命令を下したといいます。
 ところが、馬謖は山上に布陣し、孔明が恐れた通り給水路を絶たれ、結果として蜀軍に大損害を与えてしまったのです。
 馬謖の行為が愚かであったことに異論はありません。ただそれだけを敗因とすることにどこか引っ掛かりを覚えたのです。

 というのも、自分の部下にも身勝手な行動をして現場に大混乱を巻き起こす者がいることを想起したからです。
 その場では「実力もないのになんで勝手に判断するんだ」と、A課長には怒りと苛立ちしかありません。
 しかし、第三者の目で歴史を読んでみると、馬謖の気持ちが分からないではないのです。
 孔明に1から10まで事細かに指示されて、自分で考えることを許されないのが耐え難かったのでしょう。
 それは部下に考える余地を与えないほど細かな指示を出し、しかもそれがちゃんとできているかどうか自分で確認しないと気が済まないという仕事に対する姿勢です。
 馬謖も山上に布陣することの愚かさを認識していたに違いありません。でも、そうせざるを得なかったというのは、そうでもしなければ自分が居ることの意味を確認できなかったからなのではないでしょうか。

 翌日からA課長の部下に対する態度は一変しました。自分でも慣れないから違和感はあったのですが、貫きました。
 懇切丁寧に教えることをやめて、質問があったときには「どうしたらいいと思う」と反問するようにしたのです。
 もちろん相手も戸惑います。なかなか答えは返ってきませんが、それでもA課長は辛抱強く待ちます。「何でもいいから、君の意見を訊きたいな」と背中を押す言葉を添えることもします。
 すると、何らかの答えは返ってくるものです。的外れな場合もありますが、A課長は一旦受け止めて、改めて正解に近づける質問を投げかけたそうです。

 一方的に細かく指示を出すこともやめました。一緒に考えるようにしたのです。教えないことで教えるやり方と一緒です。
 つまり、指示を出す代わりに「考えているんだけど分からないんだ。どうしたらいいと思う」と投げかけたのです。意を得た答えが返ってくれば、称賛してそのまま進めるよう促します。
 それでなければ新たな視点を提供し、部下自らが答えを出すよう働きかけました。

 元来、人は自分で考えて答えを見つけることに喜びを見出す生き物だと思います。部下がもし指示待ち社員だとしたら、その原因は優秀すぎる上司にあるかもしれません。
 上司が先回りして失敗しないように細かく指示すれば、「やらされ感」が強くなります。指示から外れて叱責されればその傾向はより強まり、指示待ちが習慣になってしまっても不思議ではありません。
 前に教えたことでも忘れる度に教えていれば、部下は覚えなくても訊けばいいとインプットしてしまいます。
 あなたの部下は自ら考えて動く力を必ずもっています。それを引き出すことこそ上司の役目なのではないでしょうか。

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