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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

人事評価制度への不満

人事・労務

 各種報道でご承知の通り、今は深刻な人手不足です。採用活動などで、みなさんも肌で感じていることと思います。
 この状況に、中小企業はどう立ち向かえばよいのでしょうか。今までよりも採用活動に力を入れるばかりが、対策ではありません。
 今いる人材を活かし切ることも一手です。そのために注目したいのが、人事評価制度の見直しです。実際に評価が不満で会社を去る社員は数多くいます。
 今いる優秀な人材を大切にし、伸ばしていくためにも、人事評価制度について考えます。
  
 新規採用が困難な状況だからこそ、今いる人材を大切にすることが必要です。彼らが不満を溜め込んで退職してしまうことは、避けなければなりません。
 エン転職(エンジャパン株式会社)の調査結果では、「退職を考えたことがある」と回答した人のきっかけ・理由は以下のとおりです。

 1位:やりがい・達成感を感じない
 2位:給与が低かった
 3位:企業の将来性に疑問を感じた
 4位:人間関係が悪かった
 5位:残業・休日出勤などの拘束時間が長かった
 6位:評価・人事制度に不満があった
 7位:自分の成長が止まった・成長感がない
 8位:社風や風土が合わなかった
 9位:業界・企業の将来性が不安だった
 10位:やりたい仕事ではなかった

 上記のうち注目したいのが、太文字の項目です。いずれも退職者が努力に見合った評価と給与を得られなかったと感じていることが窺えます。
 そこで評価される人が納得できる人事評価制度の実現に取り組んだ事例をご紹介します。

 A社は生活用品や化粧品を製造販売するメーカーです。従業員数は60人ほどで、直近の売上高は12億円に届いたそうです。
 A社は元々、「自然派」をコンセプトに創業された会社で、天然由来の素材だけを使った商品の製造販売にこだわっています。30年前の設立当初は売り上げがなかなか上がらず、細々とした経営が続いていました。
 それが時代の流れとともに健康志向の風潮が広まるにつれて、A社の売り上げは上がっていきました。以来順調に成長し、現在の規模に至っています。

 A社最大のヒット商品といえば、シリアル食品の一種であるグラノーラでしょう。ご存知の方も多いと思いますが、グラノーラとは、麦、玄米、トウモロコシ、ナッツなどをシロップと植物油に絡め、オーブンで焼いた食品です。
 今ではダイエット効果もある朝食の定番として知られていますが、健康志向の人たちからは、そこに含まれている添加物を気にする声が上がっていました。そこでA社は、長年培ってきたネットワークと製造方法により添加物を含まないグラノーラを開発しました。この商品が、「おいしいうえに体に良い」と、健康志向の人たちを魅了したのです。

 しかし、このように順風満帆に見えたA社ですが、ある大きな問題を抱えていました。それは、社員がなかなか定着しないことです。
 それも、「あんなに真面目に頑張っていたのに、どうして辞めてしまうのか」と思わずにはいられないような、これからが期待できる優秀な中堅社員が退職していくのです。
 A社は事業も好調で、安定しています。他と比べて給料もそれほど低くはないはずです。それなのに、なぜ彼らは辞めていってしまうのでしょうか。A社の経営陣は頭を抱えるばかりでした。

 経営陣は、辞表を持ってきた退職希望者たちに「どうして辞めるのか?」と毎回理由を尋ねていました。しかし、返ってくるのは「家の事情で」「体を壊してしまって…」など、表面的な理由ばかりでした。
 気まずそうに答える彼らの様子を見ると、本当の理由は他にあるのではないかと感じざるを得ません。
 しかし、何を聞いても当たり障りのない回答を繰り返すばかりです。結局、退職希望者への聞き取り調査から得られたものは、ほとんどありませんでした。

 そんなある日のこと。また社員が1人辞表を持ってやってきました。「君も辞めてしまうのか」と残念に思った経営陣は、どうして辞めるのかを彼にも尋ねました。しかし、やはり返ってくるのは表面的な理由で、本心は聞き出せませんでした。
 一体何が原因なのでしょうか。経営陣は、辞めていった彼の周りに何気なく聞いてみました。すると、「自分の評価に納得がいかない、と度々言っていた」という情報を得られました。経営陣は彼を正当に評価しているつもりだったので、この言葉に驚きました。それと同時に、他にも人事評価制度に不満をもつ社員がいるのではないかと思うようになりました。

 そこでA社は、今の人事評価制度に対する不満や疑問についてのアンケートを匿名で実施し、全社員に尋ねてみました。
 その結果、今いる社員の多くが人事評価制度に疑問をもっていることが浮かび上がってきたのです。そして、内容のほとんどは、「なぜその評価になったのかがわからず、納得できない」という、人事評価制度の不透明性に対するものばかりでした。このままでは、また人が辞めてしまうかもしれません。
 ここに至って、A社は人材定着のために人事評価制度の形を見直す必要があると確信しました。

 A社ではこれまで、経営陣が人事評価制度について専門的に学んだことがありませんでした。中小企業であれば、同様の会社は多くあるでしょう。
 では、今までA社がどのように人事評価をしていたかというと、「何となく」というのが実際のところでした。明確な基準はなく、経営陣や上司から見た頑張り度合いや、他の社員との相対評価によって評価していたのです。このように経営陣や上司の主観で評価をされると、社員はなかなか納得できません。

 そこでA社は、社員も納得感をもてる人事評価制度を作ることを目指しました。一から学ぶべく、講師を招いて勉強会を重ねました。
 そのときに講師が話していたのは、なぜ人事評価制度があるのかという意義です。
 その質問を受けて、経営陣はそれぞれ思い思いに考え、回答をしました。「社員の働きぶりを評価するため」、「社員が働くモチベーションを高めるため」、「給与を計算して支払う際の根拠にするため」。そのどれもが正解です。ただ、最も大切だと言われたのは、人事評価制度は、会社の理念を達成するためにあるというものでした。

 会社は、自ら掲げた企業理念を実現するために存在しています。社員にはその理念を実現するべく働いてもらいたい、というのが、経営者として望むことでしょう。
 それならば、理念を実現することに対して、社員が自主的にモチベーションを保てる仕組みが必要です。そのためには、
 理念実現に向けて努力し、成果を上げる社員を高く評価することが効果的です。それが、人事評価制度の大きな意義なのです。
 この話を聞いた経営陣は、理念の実現度合いを評価する方法について考えることにしました。

 経営陣の感覚によらずに正当な評価を受けられれば、社員は透明性の高い人事評価制度に信頼をもてるようになります。これを実現するために、A社が約1年かけて設計した人事評価制度は、「評価の基準は何か」「評価はどのようなプロセスで決まるのか」を明確にしたものでした。
まず「評価の基準は何か」に関しては、「目標管理制度」と「コンピテンシー評価(行動評価)」の2つを導入しました。
「目標管理」は、予め評価者(上司)と評価される側(部下)とで目標を話し合って決め、その達成度合いで評価する制度です。また、「コンピテンシー評価(行動評価)」は、企業理念に沿った社員の取るべき行動、考え方を基準化し、その指針に則った行動をしているかを評価する取り組みです。
 これで、経営陣の感覚のみによる評価ではなく、明確な基準をもった評価が可能になりました。

 さらに、「評価はどのようなプロセスで決まるのか」に関しては、評価決定前の面談を導入しました。
 評価決定前の面談では、評価される側の自己評価や努力した点をしっかりとヒアリングした後、評価者からも感想や評価イメージを伝えます。そうした話し合いを行なったうえで、評価者によって最終評価が下されます。一度、お互いの成果認識に対して話し合いが行なわれているため、評価される側も「なぜ、このような評価になったのか」といった納得感をもてるようになりました。
 
 冒頭で示した通り、転職・退職理由には、人事評価制度への不満がいつも挙がります。今は極度の人手不足です。優秀な人材を失いたくはありません。今いる社員のモチベーションを上げ、会社の理念実現に向かって行動していくためにも、評価者の感覚に依存しない、理念実現と連動した人事評価制度が必要不可欠です。
 今の人事評価制度を見直してみる価値は、十分にありそうです。

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