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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

経営における「合理的な部分8割、非合理な部分2割」

経営

 経営は基本的に合理的なものです。様々な情報や数字に基づき、しっかりとした根拠をもって行なうものだからです。
 しかし、経営のすべてが合理的にいくとは限りません。どこまで合理的に考えても、最後には必ず失敗する不安を思い切り、決断する必要があります。
 つまり、時には合理さだけでは越えられない、不確かな非合理の深い溝を跳ばなければならないのです。

 経営は、基本的に合理的に進めるものです。様々な情報や数字を統合し、外部と内部の環境を考慮して、理詰めで成功の可能性を高めていきます。
 しかし、すべてが合理的にいくかというと、そうではないようです。特に、未来のことに対しては、情報が万全に整っていることなど稀です。その際には、合理性のみならず経営者自身の直感や思い切りも重要な判断基準となります。

 1965年末、日本では長い高度経済成長も終焉に向かい、新たな時代の象徴として、自動車が注目され始めていました。
 その後、高速道路や一般道が整備され、自動車での移動がさらに容易になると、自動車は急速に一般家庭にまで広まったといいます。
 いつしか日本の自動車保有台数は800万台を越え、自動車社会が確立されていきました。
 そうした時代の流れの中、A社長は中古車販売のA社を立ち上げたのです。
「中古でもいいから自動車を持ちたい、車に乗りたい」というのは、時代の要請でした。 そんな中、市場のニーズに敏感に応えながらA社は順調に売り上げを伸ばしていったそうです。

 中古車はニーズが多様なだけに、そのマッチングに時間がかかります。それでいて、市場はそれよりも短いスパンで値動きしますから、この前まで高値を付けていた車が、そのわずか1ヶ月後には30%も値段が下落してしまったというケースは珍しくありません。
 そして、広い敷地に多くの車を展示するという方法は、地代が上がるにつれて膨大なコストを生む原因になりました。
 中古車業界ではそれらのリスクを踏まえたうえで、買い取り価格を決定するようになっていきました。つまり、買い取り価格から、展示コストと在庫コストをあらかじめ引いて査定するのです。
 顧客から見れば、ただでさえ走行距離や年式等様々な要素が絡む査定です。そこから企業側の都合で数万円引かれることを納得できるはずがありません。
 次第に、顧客は販売会社に不信感をもつようになり、業界では販売会社と顧客が対立するという構図が出来上がりつつありました。

 A社長は、この構図に疑問をもち、いつしかこれが業界の衰退を招くと危機感を募らせたといいます。
 そこから脱却すべく、数年後、A社長は、「買い取り専門」への転向を決断しました。
 これには少し説明が必要でしょう。中古車の流通には3つのタイプの取引があります。 ①中古車を消費者から買い取る(CtoB取引)、②オークションでの中古車販売業者同士の売り買い(BtoB取引)、③中古車を消費者に販売する(BtoC取引)です。
 この3つの内、大きな利益をもたらすのは、③中古車を消費者に販売することです。 これをやめるというのです。

 正確に言うなら、消費者への販売はやめて、中古車の販売先を同業他社に絞ったということです。
 これは業界から見れば、暴挙に等しい決断でした。当時のオークションといえば自社で売れ残った車を、買いたたかれるのを承知で同業他社に売る場所でした。売れたとしても値段はBtoCの約3分の1程度になってしまいます。それにもかかわらず、同業他社との取引のみを行なうというのは、自ら儲けの源泉を捨てることを意味するように思えます。
 業界全体からみても異例の方向転換でした。
 この異例の決断の裏には、当時業界に押し寄せたインターネットの普及がありました。
 オークションは基本的に業者同士の取り引きです。従来は売り手が現車を用意して、オークション会場に買い手が出向き、中古車の取り引きをしていました。そこに、インターネットを導入することで、直接出向かなくても、取り引きすることを可能にしたのです。
 これは、買い手の負担を大幅に軽減し、今後オークションによる取引が活発になることをA社長に予想させました。

 さらに、オークションで行なわれる取引のスピードはすさまじいもので、10数秒に1台が落札されるといいます。そして、出品された中古車の約半数が落札されるのが標準です。A社長はこのスピード感と落札率の高さに賭けました。
 消費者から買い取った車を在庫として保有するのではなく、値が下がらないうちに、オークションで売却することにしたのです。
 以前は2~3ヶ月だった車両在庫回転期間が7~10日に短縮されると同時に、膨大な展示場コストからも解放されました。

 この異例の方向転換にA社長自身不安がなかったといえばウソになります。いくら有利になりそうな情報が揃い、成功の兆しが見えていたとしても、保証にはなりません。
未来に「絶対」はないからです。
 それでも、A社長が決断に踏み切ったのには、「顧客と販売会社の溝を埋めれば、必ず自社を顧客が選び、下がったマージンは仕入れ台数でカバーできる」という直感があったからでした。
 最後の最後、決断へとA社長をジャンプさせたのは、非合理な直感だったのです。

 経営は基本的に合理的に進めるものです。A社長の決断の裏にも、いくつかの「成功の兆し」がありました。それすらなく決断することは、ただの無謀です。しかし、成功の兆しをいくつ集めたとしても、失敗が絶対に無いとは言い切れません。どこかで、「やってみないとわからない」要素は必ずあります。
 経営において「合理的な部分が8割、非合理な部分が2割」とよく言われますが、その理由がここにあるのでしょう。
 合理性と非合理性をうまく融合させ、未来へ跳ぶ決断力があってこそ、他に先んじることも、抜きん出ることも可能にさせるのではないでしょうか。

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