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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

1on1(ミーティング)の一連の流れと注意ポイント

人事・労務

 近年、人手不足のために思うような成長を実現できていない企業が増えています。今後、人材採用はますます困難になることでしょう。こんな状況だからこそ、今いる人材や、これから来てくれる人材を一層大切にしなければなりません。
 そこで重要になってくるのが、部下の成長をサポートする取り組みです。そのための手法として、ここ数年で、日本企業での普及が広がった1on1ミーティングです。
 大手企業を中心に導入が進み、最近では企業規模を問わず1on1ミーティングが活用されています。この1on1の導入から実践まで、一連の流れと注意ポイントをご紹介します

 近年、人手不足が原因で、思うような成長を遂げられていない企業が増えています。
 依然として、中小企業は大手企業よりも人が集まりにくい状況です。売り手市場の中、中小企業に比べて待遇の良い大手企業への就職を望む人が多いのは、自然なことなのでしょう。
 そのため、新たな人材確保と同時に、「今いる人材の成長と活躍」に力を注ぐ中小企業が増えています。その際に、社員の能力と可能性を最大化する手法として注目されているのが、1on1(ミーティング)です。
 多くの企業が興味を抱いている1on1とは、どのような取り組みなのでしょうか。そして、どのような効果があって、導入の際に押さえておくべきポイントは何なのでしょうか。

 A社は各種システムを開発するIT系の会社です。自社開発したシステムを紹介して会社ごとにカスタマイズしたり、各社の要望に合わせて独自のシステム開発を行なったりしています。
 今や、業務を効率化するためにIT技術を利用することはビジネスにおいて必須です。
 世の中のニーズや最新の技術など、IT業界は日々変化しています。この変化にA社は柔軟に対応することで受注を伸ばし、アフターケアなど丁寧な仕事で信頼を構築してきたといいます。

 A社の成長を支えたのは堅実な仕事ぶりだけではありません。A社長の方針で、A社は入社からそれほど経っていない若い社員に対しても仕事を任せるようにしていました。
 任せる仕事は、もちろん彼らの手に余るような案件ではありません。彼らがちょっと背伸びすればやり通せるだろう仕事をうまく割り振っていたようです。
 というのも、社員が成長するには経験を積むのが一番だと、A社長は考えていたからです。実際に、この方法が功を奏して、今に至る成長を遂げたといえるでしょう。
 しかし、全社員が順調に成長しているわけではありませんでした。仕事が遅れ、なかなか成果を出せない社員もいます。
 その理由を聞いてみたところ、「仕事の進め方に悩んでしまって」、「チームメンバーとの連携がうまくいかなくて」などの声が上がりました。これを聞いたA社長は、彼らが悩みや課題をうまく解消できていないことが、成長の停滞につながっていると気付きました。
 それならば上司に相談すれば良いのですが、上司は業務に忙しそうで、なかなか声をかけるのに気が引けていたようです。
この課題をどう解消するか。そんなときに、A社長は1on1のことを知ったのです。

 1on1とは、「上司と部下の間で定期的に行なわれる1対1の対話」のことです。ここで話される内容は、「部下が抱えている課題や悩み」と「その解決方法」、そして「成長につなげる具体的な行動決定」の3つです。
 こう聞くと、「そんなことは昔からやっているし、何も特別なことではない」と思われるかもしれません。しかし、ここで重要なのは、解決方法や行動は部下自身が考えて決めること、つまり、あくまで主役は部下であるということです。
 自分でとことん考えて導き出したことを実践して振り返ることは、経験から学んで次に活かすための重要なサイクルです。1on1は、部下の悩み解決のサポートをしながら、このサイクルによって成長を促すという目的があるのです。

 A社長は、1on1は現在の自社に必要な取り組みだと感じました。そこで、まずは試しに自分と各部門長とで行なうことにしたそうです。本当は、成長して欲しい若手社員を対象に始めたいところですが、1on1はA社長にも初めての経験なので、まずは自分からやってみることにしたのです。
 実践するに当たって、A社長は1on1を「なぜ」やるかを彼らに伝えました。経験による成長を重視するA社の場合、より経験の質を高めて、社員の成長を促すというのがそれです。
 以下は、1on1を始めた当初、A社長とある部門長との間で行なわれた対話の再現です。
 「今日は何を話しましょうか」
 「プロジェクトの話ですが、Bさんがメンバーと意見が合わず、しょっちゅうぶつかって、進捗状況が思わしくありません」
 「うん。確かに彼にはそんなところがあるね。具体的には誰とどんな風にぶつかっているんですか」
 「えっと、特にCさんとは折り合いが悪いようで」
 このやり取りはその後、メンバー間で起きている衝突や、Bさんの協調性について話が展開しました。
「やはりBさんのコミュニケーションの仕方に問題があるようだね。そこのところを本人と話してみたらどうでしょう?」
 つまり、問題のある本人と話し合うべきだ、というのがA社長の結論でした。「そうしてみます」と部門長は答え、2人の1on1は終わりました。
 その後、さらに数人とも1on1を実施しました。A社長は、部下の悩みにアドバイスし、解決に向かっているという実感をもっていたそうです。

 そんなA社長の手ごたえを裏付けるかのように、部門長を集めて感想を聞いてみたところ、おおむね良い意見ばかりでした。
 しかし、1人の部門長がとても言いづらそうに発言した内容は、他の意見とは違っていました。
 「正直に言うと、いつもの報連相と変わらないと感じました。私が報告をして社長から指示をもらい、行動しています。わざわざ特別に時間を取る必要はあるのでしょうか?」
 この部門長は1on1を、普段どおりの報連相と同じものであると感じていたのです。この意見を聞くと、他の部門長たちも黙ってしまいました。恐らく、同じように感じているのでしょう。
 その言葉から、1on1で決まった解決法は、部門長たちが自分で導き出したものではなく、A社長が出した、具体的な指示になってしまっていることがわかりました。
 経験を記憶に定着させて次に活かすためには、自分で考えたことを実施し、結果を振り返ることが重要です。A社長も、そのことはわかっているつもりでした。
 しかし、会話の内容を振り返ってみると、確かに部下が答えを出す前に、A社長が自分の意見を伝えていることに気付きました。

 1on1の鉄則は、上司が部下の話を聞くのに徹することです。
 その際、「君はこういうことを言いたいのかな?」と、上司が結論めいたものをリードしてはいけません。なぜなら、部下には間違ったことを言って、上司に幻滅されたくないという思いが少なからずあるからです。
 上司がリードすればそれに従いがちですし、それ以上自分の考えを話しづらくなってしまいます。豊富な経験のある上司から見れば、部下の悩みに対する解決策を示し、間違いはすぐに正したくなってしまいがちです。しかし、それをこらえて部下自らが答えを導き出すように見守ることが、1on1では重要なのです。
 A社長自身、トライ&エラーを繰り返して、やっと部下の成長のためにアドバイスを抑えられるようになってきました。
 そして、試行錯誤を繰り返しながら継続したことで、A社長はある変化を感じました。部下が自分の本音を臆せず伝えてくれるようになったのです。
 上司を相手に話をするとき、部下は遠慮しがちになります。しかし、定期的にひざを突き合わせて話すことで、率直な対話ができる信頼関係が構築されたのです。1on1を続けた結果、A社の社員の成長スピードは上がり、社員同士の会話も増えました。現在A社では、1on1を部門長だけではなく、本命だった若手社員にも実施しているそうです。
 
 1on1を実りあるものにするには、信頼関係が必要です。それがなければ、その後を恐れて率直な対話などできません。
 しかし、開始当初からこうした信頼関係は必須ではありません。なぜなら、1on1を継続して部下の話を繰り返し丁寧に聞くことで、A社長のように信頼関係は後からでも構築可能だからです。定期的に社員が本音や悩みを話せる場を設けることが、成長には大切だといえます。1on1の導入を検討する価値は、十分にありそうです。

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