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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
整備、評価・処遇制度の構築など、人に関わる分野から経営を
サポートいたします。
社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

人の能力を最大限に伸ばす

人事・労務

 企業理念は、会社の存在意義や方針を明文化したものです。これは、会社が組織としてまとまる際の非常に重要な土台になります。社員が一丸となって企業理念の実現に向かっていけるならば、会社の成長は必ず加速することでしょう。そのためには、企業理念を浸透させ、社員の行動にまで落とし込むことが大切です。では、それをどう実現すればよいのでしょうか。

 A社はいわゆるITベンチャーです。売り上げを急激に伸ばしており、大きく成長しています。
 最初は3人で始めたそうですが、現在では社員が40人を超えるまでの規模になりました。
 次々に新技術が開発されて需要も多様化している中で、IT業界では日々数多くの企業やサービスが生まれています。
 そんな星の数ほどあるITベンチャーの中でA社が際立つことができたのは、自社の技術を世の中のニーズにうまく合致させられたからでしょう。

 A社の主たる事業は、医療、看護、介護関係者に特化した求人サイトの運営です。
 A社のサイトが画期的だったのは、当時はまだ少なかった求人情報の無料掲載を実践したことです。これなら、費用が理由で求人を控えていたところも採用に取り組めます。
 その効果はすぐに現れました。口コミにより全国から求人情報が集まってきたのです。 そうなれば自然と就職希望者も集まります。
 そして、サイトを通して採用が決まれば、その時点でA社は報酬を得ます。いわば成功報酬というわけです。
 こうしてA社は順調に成長を遂げてきました。しかし、組織が大きくなればそれだけ課題も増えるものです。
 特に顕著なのが、コミュニケーション量の減少です。人数が増えると、経営者自身が企業理念や方向性について一人ひとりに語ることが容易ではなくなります。語り継ぐ習慣や環境がなければ、企業理念の存在自体が薄れてしまうことは、よくあることです。
 企業理念の存在が薄れることは、会社全体の共通目的がなくなるのと同じです。次第に、社員は思い思いの目的に向かって仕事を行ないはじめました。こうして、A社の一貫性は失われていったのです。
 事態はそれだけに留まらず、社員間トラブルまで引き起こしていました。目的が違えば、仕事の仕方も異なります。それが原因で、意見の衝突が数多く見られるようになりました。つまり、経営理念の存在が薄れたことで、会社全体がバラバラになってしまったのです。

 そこで、A社長は企業理念の浸透へ取り組むことを決意しました。最初に行なったのは、企業理念を社員に知らせることです。A社の企業理念は、創業当初に書かれたきり、書類棚にしまわれていました。まずは、それをポスターにして見えるところに貼り出し、周知することにしました。
 これだけで浸透したら楽なものです。次に行なったのは、理念実現のための行動をまとめた「行動指針」の策定でした。
 企業理念を知っていたとしても、仕事上の行動に活かされなければ意味がありません。それを防ぐための取り組みです。
 ただ、A社長はこれを自分だけで決めることはせず、社員全員で考えて策定するという方法を採用しました。一方的に決めてやらせても自分事にはならないため、あまり実践されないだろうと考えたからです。
 社員全員で議論を重ねて策定した行動指針は、全部で8条になりました。企業理念を日常で活かせるように、行動ベースに落とし込んだ表現がなされています。例えば、「高い目標を掲げる」や、「真のチームワークを築く」などです。理念を理念のまま終わらせまいと、全員で苦心して策定したものでした。

 A社では、この8条の行動指針を名刺大のカードに印刷し、全社員が常に携帯するようにしました。
 これらの取り組みの結果、社員には自分たちで作り上げたという意識が強く残ったのでしょう。行動指針を意識した上で、理念を実現しようと行動する場面が多く見られるようになりました。
 その姿を見て、A社長は胸をなでおろしました。創業当初の、一丸となって突き進んでいたあの空気が復活したと思えたからです。
 しかし、一歩進んだように見えて二歩下がるのが企業経営です。A社も例外ではありませんでした。
 確かに、企業理念を貼り出すことで、広く社員に知らしめることはできました。また、自分たちで行動指針を策定したことで、一層企業理念を意識した行動を取りやすい状態もつくり出せました。しかし、以前より少なくなったとはいえ、まだまだ判断や行動のばらつきが見られます。

 A社長がその原因を探そうと社内を見回していると、先輩社員が後輩社員を指導している場面に出くわしました。さりげなく話を聞いてみると、後輩社員が立てた無謀な目標を先輩社員が諭していたそうです。しかし、後輩社員も言い分があります。それは、行動指針の「高い目標を掲げる」を自分なりに理解し、実行しようとした結果だということです。
 A社長は、ここに原因があると感じました。
 他の行動指針の説明文についても、個人差がありました。全員で案を出し合って策定した行動指針ですが、一つひとつの言葉のイメージが個人によって違ったのです。
 こうした実情を察知したA社長は、各社員でバラバラだった認識を統一しようと決意しました。そのために取り組んだのが、行動指針の説明文を作成することです。
 これは、行動指針の各条項を日々の仕事に当てはめて、より具体的な行動を説明して文書化したものです。

 説明文の作成は、各社員が行動指針に基づいてどういった行動を取っているのかを話し合うところからスタートしました。
 具体的には、社員ごとの取り組み事例を一つずつ吟味し、文章へとまとめていきました。もちろん、話し合いのメインは社員同士です。
 こうして、すべての条項に対する説明文が完成しました。例を挙げると、先ほど問題になっていた「高い目標を掲げる」では、「決して無謀な挑戦をするという意味ではなく、今の自分より一段高い目標を掲げることである」というものに落ち着きました。

 他にもA社では、企業理念を実践に移し、それを継続するための仕組みをつくって運用しています。その一つが、企業理念に沿った行動を表彰する制度です。最初は照れくさそうにしていた社員たちも、今では表彰を目指し、積極的に行動しているそうです。
 企業理念を共有して実践に移すのは、確かに簡単なことではありません。
 しかしA社のように、社員を巻き込みながら具体的な行動を決められれば、その第一歩は着実に踏み出せるのです。

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