ことわざを聞くと懐かしい気分にさえなりますが、『三人よれば文殊の知恵』は今でも生きている言葉だと思います。
この言葉の意味は、
「たとえ一人一人は平凡でも三人集まって考えれば、何かしら有益な知恵が浮かぶものだ」
というものでしょう。
一人で考えるより、みんなの知恵を集めようというのは、私たちの日常的な感覚だと言えるかも知れません。
ところが、心理学者と呼ばれる人たちは、こうした日常感覚を科学的に確認しようとするようです。
まず、グループを『合議の5人』と『バラバラの5人』の2組に分け、両方に同じテーマを与えます。
この実験では、いわゆるブレーン・ストーミングとよばれる形態で、
①できるだけ多くのアイデアを出す、
②自由な発想をする、
③他のメンバーを批判しない、
④他のメンバーとアイデアを積極的に交換する
というルールに従ったとされています。
これは、まさに私たちが理想的とさえ考えている合議形態でしょう。
ところが、検討が終わって有効アイデア数を集計してみると、集まって理想的な話し合いをしたはずの合議チームが出した有効案の数は、その総数でも独創性でも5人がバラバラに考えたチームにかなわなかったそうです。
実は合議では、自分の考えをまとめながら他者の意見にも耳を傾けて理解する努力が必要になるという2方向への「エネルギー分散」することになり、考えを集中させにくい上に、
自分がやらなくても誰かがやるだろう、
という思いをメンバーに抱かせるため、なかなか成果が得られないそうです。
追い込まれなければ、人は力を発揮しません。
エネルギーや責任の分散は、個人の創造力を害してしまうものなのでしょう。
私たちも考え方を変えなければ、勝ち残りへの貴重なアイデアを、組織内に眠らせたままにしてしまうかも知れないのです。
そのためには、従来どちらかというと、チームワークや集団主義に傾いている社内の諸制度を、順次時代に適合するように組み替えて行く必要があります。
具体的には、賃金制度を含む人事制度や就業規則、あるいは業績評価それ自体のあり方に留まらず、会議方法の改革や個人面談の重視など、組織運営の仕組み自体を、誰もがそれとわかるように、明確に変えて行かなければならないということです。
そうした変革に際しても、組織内の合意や総意を求めるのではなく、個人の責任意識に期待しなければなりません。
そこで、社内の管理者や人材の現状を一旦忘れ、思い切って「あるべき組織」について考えると、日常ではなかなかまとめる時間がなかった経営戦略が見えて来ることになるのではと思います。
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