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赤坂の社労士事務所

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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

「先行管理」と「事後管理」

経営

 日本の企業では、どちらかというと事後管理に重きが置かれているようです。事後管理とは、過去の数字を精査し、なぜ目標に届かなかったのかを分析する手法です。もちろん役には立ちますが、あまりに重視され過ぎると、経営は勢いを失ってしまいます。それがあくまで過去に立脚した視点だからです。そこで先行管理という未来志向の視点で考えてみます。

事後管理とは

 会議室に顔を揃えている人数は20名を超えているでしょうか。経営幹部に加えて、営業部長から入社1年目の営業社員まで、営業に関わるすべての人員が集まっています。
口火を切るのは営業部長の役目です。前月の営業成績が目標に対して実際はどこまで達成できたのか。さらには前年同月との対比も行なわれます。
 部長の概括が済むと、次は営業社員が一人ひとり、自分の営業目標に対する成否を発表します。

  未達の場合は、なぜそうなったかの自己分析が求められ、そこに上司からの助言・論評が加わります。
 月初め、いつもA社の会議室で見られる光景です。
 営業会議を終えると、 A社長はいつもどこか満たされない気持ちを抱えてしまうそうです。社員のみんなが一所懸命にやって、自分なりの工夫を凝らし、それを実行してくれているのは伝わってきます。それなのに、どうしてか、何かが足りないと感じてしまうのです。
 そうして自分の机に戻り、資金繰り表をチェックするのが、営業会議を終えた後のA社長の決まりきったスケジュールでした。3ヶ月先までの収入と支出が予測されています。目を通すうちに、A社長はふと思い当たったのです。

先行管理

 
 資金繰り表は1年ほど前から活用しているそうです。試してみると確かに便利で、そればかりでなく、会社の先々の姿が資金という具体性をもってイメージできましたから、経営基盤にも影響を与えています。
 将来必要になるだろう手立てを現時点で知り、そのための準備を今から始められたわけです。
 A社長が思い立ったのは、このことでした。
 つまり、資金繰り表がもつ「先行性」という考え方を、営業活動に応用できないかということです。

営業活動に「先行性」があれば、将来のための行動を今からとることができます。
振り返ってみれば、A社の営業に足りないのはまさにこれでした。
先ほど紹介しましたが、A社の営業会議は過去のデータをベースに行なわれています。

 「前年同月比」といった資料を参照しているのはその証です。たしかに、A社のやり方は改善点の発見や反省を促すうえでは有益でした。
 それは、現在必要な行動を過去の視点から見るという行為だったのです。
 そのためにA社では、期末になって慌てて帳尻合わせをするような動きが過去にありました。
 目標達成に向けてがんばったと捉えることもできますが、中には不正行為に近いことをした社員もいたのです。
 いずれにしても、将来のために現在必要な手立てをとれていなかったことが原因で、いざその場になって慌ててしまったと捉えることだってできるのです。
 ですから、A社長は自社の営業会議に、これまでのやり方と並行して「未来志向」のものも取り入れました。具体的には次の通りです。
 
 まずは、明確な期限を設定し、その時点までに達成すべき目標を部全体、各セクション、営業部員個々人のレベルで設定しました。
 これまでと同じように思えますが、違ったのは、その理由付けが求められたことです。
それは、数ヶ月先の会社と自分のイメージを頭の中で具象化することでした。なぜそこを目指さなければならないかを自問することは、自分の使命と共に新たな行動を呼び起こしました。以来、A社の「体質」が明らかに変わってきたようです。営業部員は3ヶ月先、6ヶ月先、あるいは1年先を見ています。
 そこの時点を見越して目標を立てていますから、例えば3ヶ月先の目標を達成するために、現状で何が足りないか、何をすればいいのかを考えるようになりました。
以前だったら、間際になって慌てふためき、結局効果的な行動が取れなかったのに比べれば、一手も二手も余計に働きかけることができ、まったく別のアプローチを試すことさえできるようになったのです。
 A社の「体質」が変わったというのは、それだけではありません。先行性を業務全般に取り入れた結果、5年先、10年先の事業構造にまで考えが及ぶようになりました。
 そのころの社会情勢を考慮に入れながら、自社は何で儲けるのか、そのために今なにをすべきかが見えてきたということです。
 また、A社長は最近では後継者のことも考え始めたそうです。A社長もまだ若いのですが、100年後のA社を視野に入れると、今からでもやることはいっぱいあるとのことです。

まとめ

 日本の企業の管理システムは、「事後管理」が主流になっています。A社の事例にも出てきた「前年同月比」といったやり方です。それが悪いわけではありません。
 ただ、それだけに頼ってしまうと、どうしても未来志向が弱くなります。改善点の発見や反省に効果的ではありますが、時として批判や釈明の場になってしまうという弊害もあります。
 ですから、事後管理と先行管理をバランス良く併存させてみるのはどうでしょうか。きっと組織をより一層強くしてくれると思います。
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