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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

サービス残業-想像を超えた事態

人事・労務

 「中小企業は社長で決まる」などと言われることがありますが、A社の場合もその傾向が少なからずあったようです。というのも、A社は5年前にA社長が独立して立ち上げた会社で、「自分が引っ張っていかなくてはいけない」という気持ちも強かったのでしょう、かなりのワンマン経営だったそうです。
 ただ、創業当初のメンバーはA社長の独立とともに一緒に付いてきた部下たちで、彼らはA社長の人となりをよく知っていましたから、極端なワンマン経営でも特に問題はありませんでした。むしろ、それがA社長の持ち味だと思っていたくらいです。

  問題が起きたのは、経営が徐々に軌道に乗り出して、新たに社員を雇う必要が生じてから後のことだそうです。新規採用した社員は3名。A社長自ら面接し、「うちは厳しいけど大丈夫か」との言葉にもひるまなかった若者でした。
 A社長の期待は裏切られることはありませんでした。夜遅くまで残って、先輩に負けじと働いていたのです。


 そのように、手が足りなくなるたびに新規採用をするようになってから2年ほどが過ぎたころでしょうか。トラブルは突然にやってきました。
 社員の一人(Bさん)が7月をもって辞めたいと言ってきたのです。ここまではどうということもない話です。ただBさんは、辞めるに当たって、ボーナスを支払ってほしいことに加えて、未払いになっている残業代を過去にさかのぼって支払ってほしいとの要求を突き付けてきたのです。未払いの残業代は200万円というのがBさんの言い分です。
 これにはA社長もカチンときたそうです。あれもこれも払ってほしいというのはA社長にしてみれば非常識な言い分に聞こえましたし、そもそも残業代は給料に含まれるということを、入社時にお互いに確認し合っていたからです。

 しばらく双方は自分の考えを主張し合ったそうですが、あまりにお互いの見解が違い過ぎることは明らかでした。
 こんな話し合いは無意味と感じたA社長は「ボーナスも残業代も払うつもりはない!」の一言で、その場を一方的に切り上げたといいます。
 A社長は最後の給料に10万円ほど上乗せして決着をつけるつもりだったようですが、事態はA社長の予想を超えて推移していきました。
 Bさんは未払いの残業代はかならずもらうつもりだと同僚に触れまわっていることが耳に入ってきたのです。

 そこでA社長はBさんを呼んでたしなめてはみましたが、当然の権利を口にして何が悪いと態度を改める気はなかったようです。こうなってはもはや雇ってはおけないと判断したA社長は、その場で解雇予告手当を払い、「もう明日からは来なくていい」と言い渡すところまで一気に進んでしまったといいます。
 厄介払いができたとホッと一息ついたA社長でしたが、Bさんとのトラブルは実はこれからが本番だったのです。
 内容証明郵便が届いたのは、それから約2週間後でした。
 初めてのことでしたのでA社長はまずそのことに驚いたそうですが、中身を確認してみてさらにびっくりします。

 未払いの残業代と遅延損害金、不当解雇に伴う損害賠償、賞与や未消化の有給休暇相当分の給与など、総額にして数百万円を請求してきたのです。正直、A社長はこれが現実に自分の身に降りかかった出来事とは信じられなかったそうです。

 書面にこそしていませんでしたが、そもそも毎月の給料は残業代を含んだものだということは面接の際に口頭で伝えてありますし、それに納得してBさんもこれまでの2年余りを働いてきたはずです。
 また、A社の場合、扱っている商品の性質上、夏が最も忙しい時期になるのですが、ボーナスは繁忙期を乗り切ったご褒美という意味が強いとの認識をA社長はもっていました。
 ですから、忙しいと知りつつ夏前の退職を申し出てきたBさんにボーナスを支給する気にはどうしてもな
れませんでした。


 さらに言うなら、ボーナス支給月の7月を前にしてBさんは解雇されて会社に在籍していないわけですから、ボーナスを払わなければならない理由は見当たりません。
 しかも、解雇予告手当として1カ月分の給料相当額は渡してあるのですから、何ら法的には問題ないというのがA社長の認識だったのです。

 ところが、Bさんの言い分はまったく違いました。残業代が給料に含まれることを納得していたわけでもないし、月100時間を超えることもある残業代を給料に含める給与体系など法的に認められないというのです。
 また解雇にしても、何ら解雇されなければならない事実はない不当なものだし、であれば7月末にもらえたはずのボーナスも支払われるべきというのがBさんの主張でした。

 結局、A社長とBさんとの間のトラブルは「労働審判」に委ねられることになりました。
 また、審判の結果が出るまでの期間には労働基準監督署の立ち入り調査もありましたし、是正勧告を経験することになりました。

 A社が就業規則を定めていなかったことが審判で不利に働いたことは間違いありませんし、A社長自身も会社の規模が大きくなっていったにもかかわらず、むかしのままの感覚で「社員は分かってくれている」と思い込み、就業規則を定めないままにしておいたのは自分の迂闊さだったと認めているようです。
 労使トラブルの半数以上は賃金をめぐるものです。残業代に関する取り決めも含め、就業管理を今一度見直してみてはいかがでしょうか。

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