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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

「コミュニケーション不調の正体 ― チームの溝を生む“感情”に気づけば、職場は変わる」

人事・労務

 社内のコミュニケーションが良好かどうかは、会社のあらゆる領域に大きな影響を与えます。人材の定着、生産性、職場の雰囲気、そして企業のブランド力にまで関わるためです。その証拠に、転職理由として常に上位に挙がるのは「人間関係」です。また、転職時に重視される要素として「職場の雰囲気」が上位を占めていることからも、コミュニケーションの質が働く人々にとってどれほど重要かがよくわかります。
 一方で、多くの企業がコミュニケーションを課題として抱えています。会議や相談の場が一見整っていても、「本音が出ない」「信頼し合えていない」「意見がぶつかると距離ができてしまう」といった問題が根深く残っているためです。ここでは、ある企業のプロジェクト事例を通じて、コミュニケーション不調の本当の原因と改善へのアプローチを考えてみたいと思います。

 天然由来・オーガニック志向のヘアケア、スキンケア商品を開発・販売しているA社には、会社の将来を左右する大きなプロジェクトがありました。従来品より高い保湿力を持ちながら使用感がさらっとした新乳液を開発し、満を持してマーケティングを行ったものの、結果は期待を大きく下回ってしまったのです。
 そこでA社はマーケティング戦略を再構築するため、新たにプロジェクトチームを編成しました。リーダーに選ばれたのは、強いリーダーシップで知られるAさんです。チームにはAさんの元部下3名と、別のマネジャーであるBさんの部下3名が加わりました。いずれも経験と専門知識のある優秀なスタッフで、プロジェクト成功への意欲も十分に持っていました。しかしAさんは、プロジェクト開始当初から「不安」を抱いていたといいます。

 その理由は、Aさんがこれまでに企業の合併事例を多く見聞きしてきた経験にあります。合併の場面では、双方が持つ文化や価値観、仕事の進め方の違いから感情のすれ違いが生じやすいものです。今回のプロジェクトチームも実質的には「二つの文化を持つ組織の合流」であり、AさんとBさんはリーダーシップのスタイルが大きく異なっていました。 Aさんは強いリーダーシップを発揮し、細部にまで指示や報告を求めるタイプです。対してBさんは放任主義気味で、どっしり構えているスタイルでした。そのもとで育ったメンバーたちは、新チームにおいてもそれぞれの“文化”を持ち込み、結果としてお互いの間に目に見えない壁が生まれていきました。

 混成チームの中にある溝を早い段階で察知したAさんは、外部コンサルタントを招く決断をしました。コミュニケーション不全は放置しても時間が解決してくれるものではなく、さらに今回のプロジェクトには時間的な余裕がないためです。当事者だけで問題に取り組めば、むしろ事態を複雑化させる恐れがあると判断しました。
 コンサルタントはまず、チームの実態を把握するため、メンバー全員にアンケートを実施しました。目的は「現在のチームがどのように見えているか」という“チームの自画像”を明らかにすることです。

 結果はAさんの予想通りでした。旧所属ごとのグループ内では信頼関係が見られるものの、異なるグループ同士では不信感が強く、チーム全体としての信頼の土台が脆弱であることが浮き彫りになりました。
 アンケートには次のような声が寄せられました。
 ・「Aさん側のメンバーは細かく報告を求めてきて、信用されていないように感じる」 
 ・「Bさん側のメンバーは、こちらから聞かないと何も言ってこないので不安になる」
 どちらも相手の行動を否定的に解釈しており、相互不信が悪循環を生んでいたのです。コミュニケーションの問題は“事実”ではなく“解釈”から生じるのだという典型例といえるでしょう。

 アンケート結果を受け、Aさんはコンサルタントとともにメンバー全員と個別面談を行いました。その際、Aさんがまず投げかけた質問は次のものでした。
 「チームのコミュニケーション不全の一部を、あなた自身もつくっていると思いますか? もしそうであれば、どこに原因があると思いますか?」
 チームは個人の集合体であり、全員が何らかの形で問題に影響しているという前提に立った質問です。メンバーからは次のような自己認識が挙がりました。
 ・「すぐ結論に向かってしまい、他のメンバーを知る時間をつくれていない」
 ・「直接言いたいことを言わず、Aさんを介して伝えてしまっている」
 さらにAさんは「それはなぜだと思いますか?」と続けました。すると、
 ・「感覚の違う相手と話すと、自分のやり方が通じずイライラしてしまう」
 ・「人を介すると、自分が責められずに済むから」
といった回答が出てきました。

 これらの言葉を通じてAさんは、「自分を守りたい」という感情が行動の裏にあることを感じ取ったといいます。人は不安や不快感を避けるために、相手とのコミュニケーションを控えたり、距離を置いたりしてしまうものです。その結果、誤解が蓄積し、関係悪化が加速していきます。面談を通して、メンバー自身もその感情に気づき始めていました。
 面談の最後にAさんは一人ひとりに問いかけました。
 「問題を解決するために、あなたができることは何ですか?」
 すると、次のような前向きな意見が生まれました。
 ・「自分のやり方に固執せず、相手のやり方を取り入れてみたい」
 ・「安心して話せる関係をつくるために、自分から声をかけてみたい」
 行動を変えることは決して簡単ではありません。しかし、全員が“内面の感情”を自覚したことで、チームのコミュニケーションは少しずつ改善していきました。

 多くの企業でコミュニケーション改善に取り組んでも効果が出ないことがあります。その理由は、表面的な行動だけを改善しようとしてしまうためです。コミュニケーションの 問題は、実は“感情”に根ざしています。
 不安、恐れ、イライラ、自己防衛――。
 こうした感情が相互理解を妨げ、表面的には「報告がない」「話してくれない」「細かすぎる」といった不調として表れます。
 行動の背景にある感情を理解し、本人がその存在に気づくことで初めて行動は変わります。
 つまり、コミュニケーション改善は、相手も自分も「どんな気持ちでいるのか」に目を向けることから始まるのです。

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