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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

仕事に振り回されてばかりの真面目なAさん

人事・労務

 クリーニング事業の販売店チェーンで、主として外回りの仕事をしているAさん。
 クリーニングの外回りと言えば、各家庭から洗濯ものを集めて配達するのが典型的なイメージかも知れません。
 しかし、Aさんが勤務している会社はかなり大手なので、洗濯物の集配は、病院などの公共施設や事業所などの大口先が少なくありません。むしろ、季節の変わり目にしか洗濯ものがない個人客より、事業所顧客の方が、年間でみると圧倒的に多いのです。
 そのAさんが、このところ現場で四苦八苦していると言います。
 時には土日の出勤を命じなければならないほど、仕事が滞ることもあるそうです。
 いったい何があったのでしょうか。

 Aさんの受け持ち地域には、最近分譲マンションが数棟建ちました。つまり個人客の市場が急速に拡大したわけです。当然、Aさんの会社では個人市場を狙えとなって、ちらしのポスティングが強化されました。
 しかも、その効果はすぐに表れ、個人の洗濯ものが、前年の倍近くまで増えたのだそうです。ところが、その数の多さばかりではなく、絹製品や毛皮などの質のバラツキの問題もあり、配達の効率が著しく悪化し始めました。

 たとえば、個人顧客のBさんは、カッターシャツとシルク混のジャケットと、レザーの付いたセーターなどが混在しているのです。そのため、預かりは一度でも、クリーニングの仕上がり期間に大差があるため、いわゆるお届けは3度以上になってしまうのです。
 それでも効率化に努めていたAさんに、そのB顧客からクレーム電話が入ります。
 「いつまでかかっているのか」という怒りの電話です。
 電話を受けたのは、パートタイムで電話番をしている事務員Yさんでした。そのYさんは、顧客Bさんの電話に、ほとんど反射的に、オンライン・パソコンの画面を見て、「出来上がっておりますので、明日(土曜日)でも明後日(日曜日)でもすぐお届けします」
と言ってしまいました。その日は金曜日で、顧客Bさんは「明日はいないから明後日の夕方にしてくれ」と返答したそうです。

 外回りから帰って電話の一件を知ったAさんは、2つの点で驚いたそうです。その1つ目は、そもそも出来上がっているのは預かりものの一部だけであって、全部揃ってから届けようとしたのに、一部の配送を急がなければならない、ということになるからです。顧客のBさんの夫人は急がないと言っていました。
 ところが、その年の気候は異常で、顧客のBさんは、冬物としてまとめて出した衣服の中のセーターを配達して欲しかったのです。
 ただ、そのことは、急いで届けた中にセーターがなく、「あれ、あのセーターは」と聞かれて初めて分かったことでした。
 「セーターにはレザーがついていますので」と説明を始めようとしたAさんに、顧客のBさんは「後になってごちゃごちゃ言い訳するな」と怒鳴ったそうです。

 そして、その事件の発生が日曜日だったということが、Aさんの2つ目の驚きだったのです。
 顧客のBさんから電話があった金曜日、Aさんは何度も事務員Yさんに「本当に日曜日に来いと言ったのか」と聞いたそうですが、Yさんは「そうだ」としか言いません。
 就業規則の改定で、休日出勤には届出(許可)が必要になり、日曜日の配達はかなり面倒なのです。

 何となくすっきりしないAさんは、日曜日に顧客のBさんを訪ねた時、第一声で実は、「すみません。日曜日の配達はいろいろ面倒なので、これからは平日にお願いします」とやってしまっていたのです。
 その際「君たちの方から日曜日を指定したではないか」として、まずムッとした顧客のBさんが、必要だったセーターがないことに気付き、怒りを爆発させたことが、先の「後になってごちゃごちゃ言い訳するな」という怒りの火種だったようです。

 顧客のBさんのクレームは、本部のお客様係にも届きました。ただし、それは叱責ではなく、御社のクリーニングのシステムを明確にせよということだったそうです。
 そのとき本部は現場ではこんなことを説明できていないのかと落胆したと言います。そして、そんな説明不足が、休日出勤や、そうでなくてもものの増加以上に業務時間の増大を生む不効率を生じさせたりしているのです。そればかりか、そのために失う既存客や新規顧客の獲得チャンスを考えると、損失は計り知れません。

 ところが店長がAさんをきつく叱ると、Aさんはその後黙り込んでしまい、2日後には仕事を病気欠勤したと言います。その様子がすぐに店から本部に伝えられ、本部が調査に乗り出しました。
 その調査では、意外なことがたくさん分かったのだそうです。その意外性には、実は、その1つ1つは何でもないことなのですが、その蓄積が現場に必要以上のストレスをかけ、効率を害すとともに、人材の不満のタネになってしまっていたのです。

 現場の業務力向上に関して、個々の人材教育もさることながら、人材の負担を軽減できるような業務の流れを確立すべきだという声が強いのも確かです。
 それは、どんどん複雑化する昨今では、個人的な努力で対処できる分野が少なくなるとともに、よかれと思ってしたことが、逆に顧客を怒らせる要因にもなり得るからです。

 すでにフローができている会社でも、材料の仕入れや製品の販売・配送など対外部門で、会社としての正式な業務の流れを考えてみること、それは複雑な時代に大切な人材を消耗してしまわない重要視点になりつつあるのかも知れません。  

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