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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

真似してほしい言動を積極的に示す

経営

 企業理念は会社にとって土台です。これが明確になっていてこそ会社の存在意義を自ら確認できますし、外部の人々が他の会社と区別をしてくれます。
 また、日常的に直面する種々の判断をぶれることなく行なうためにも企業理念の存在は不可欠です。ですから、各企業は理念を社内に浸透させるためにさまざまな働きかけをしています。
 経営者が会社にとって重要と考えている事柄を、社内に浸透させ、社員と共有するためにはどのようなやり方が効果的なのでしょうか。
 会社にとって重要な事柄とは、企業理念であり、そこから派生する行動指針などを指します。
 ある場面に社員が直面したとき、何をするべきか、何をしてはいけないかという判断は、彼らが会社の土台である企業理念をしっかりと保持していてこそ可能になります。

「ママ友」という言葉をA社長が聞いたのは、もう何年も前です。
 断片的に各種メディアから得た情報から「保育園や幼稚園などで、子供を通して知り合った女親同士の付き合い」という理解でした。
 ママ友のコミュニティーは情報交換の場としてだけでなく、新しく友達ができる喜びなど、ママ友は肯定的な存在でした。
 ママ友に関して、否定的な側面を知ることになったのは、それから1年ほど経った頃です。
 何でも、ママ友コミュニティーには厳格な掟があって、それに反する言動をとるママには仲間外ればかりか、あからさまな嫌がらせなどの罰則が科せられることもあるというものです。
 知り得る知識とネットの情報から、A社長は頭の片隅で「女同士ってのは大変だなぁ」と感じていたのが実際でした。
 つまり、それはA社長にとってどこか他人事に感じられていたのです。
 ところが、その後もママ友問題を聞くうちに、A社長は切実な問題として捉えるようになったといいます。

 A社は食品専門の商社です。A社長はもともと準大手の商社出身でしたが、経営方針にどうしても相容れないところがあって退職した経緯があります。
 その後、食品を扱う商社を自ら起ち上げました。
 最初は3人での出発でしたが、これまで事業は年々拡大してきたそうです。
 会社の成長とともに社員の数も増えました。
 ある日、いつものように働いている彼らの姿を机から眺めているうちに、ふと自分の会社もママ友と変わらないのではないかとの考えが浮かんだというのです。
 というのも、ママ友の特徴は、コミュニティーにボス的存在のママがいて、彼女の意向がコミュニティーの掟を形づくっているとのことでした。
 メンバーがボスの顔色をいつも窺っているのは、もし掟を破れば無視や嫌がらせの制裁が待っているからです。
 そのようなコミュニティーは恐ろしくも感じましたが、突き詰めてみれば会社というコミュニティーにも同じ構図があるとA社長には思えたのです。

 例えば、交渉が思い通りに進めば気分は浮き立ちます。対して、予定していた入荷がひとたび狂えば、気持ちは落ち着かなくイライラそわそわとするものです。
 A社長がそんな状況に陥ったとき、社員はいま以上に機嫌を損ねることを避けるため、決して近寄ろうとはしません。
 そうした社員のやり過ごし方をA社長も知っていました。また、機嫌が悪いときに下手に話しかけられると理不尽な対応をしてしまいがちなのをA社長も自覚していましたから、意識的に話しかけるなオーラを張り巡らすことさえあったといいます。
 程度の差、実際の仕打ちの違いこそあれ、A社には掟が存在し、それを破った者は罰則を受けるという点では、ママ友コミュニティーと変わるところがなかったわけです。
 このことに思い至ったとき、A社長はぞっとしたといいます。

 それからしばらくは、意識して理不尽な感情に基づく振る舞いを抑えるようにしたそうです。
 しかしながら、それもやがて窮屈になってきます。A社長は煮え切らない気持ちを抱えることになりましたが、事態を打開するヒントもまたママ友にありました。
 ママ友には「メンバーはボスの言動を真似る」という特性もあることをA社長は学んでいました。ボスの機嫌を損ねないためにはボスの日常的な言動からはみ出さないことが肝心で、それにはボスの言動を真似るのがメンバーにとって何よりの安全策だからです。

 ボスの言動から派生するメンバーの言動が、やがてコミュニティーの不文律を形づくっていくということです。 
 
それがママ友の場合には「掟」と呼ばれるものになり、会社であれば「企業文化」となっていくとA社長は考えたそうです。
 この思考がなぜ突破口となったかというと、メンバーがボスの言動を真似る傾向にあるというなら、それは良い方向にも作用し得るからです。
 企業文化とは、まさにそうしたものです。

 以来、A社長は社員に真似して欲しくない言動を抑えるだけでなく、真似してほしい言動を積極的に示すようにしていったそうです。
 例えば、物事が思い通りに進まないときこそ朗らかに振る舞って自ら柔軟な発想を提示したり、あるいは社員に対応策を求めたりといった態度です。
 そうした言動を継続していくうちに、A社の雰囲気は明らかに明るくなり、チームワークを大事にする風潮が以前よりも強くなったといいます。

 ママ友コミュニティーの負の側面に関するニュースは、皆さんも多かれ少なかれ触れる機会があったことでしょう。
 その際、それを別の世界の出来事で、自分には直接には関わりのないことと捉えた人も少なくないのではないでしょうか。
 ところが、ママ友のグループも、会社組織も、コミュニティーであることに変わりはありません。であれば、コミュニティーで生き残るため、居心地の良い立場を手に入れるため、メンバーがボスの行動を真似ることは避け得ないでしょう。

 ただし、真似る行為は良い結果も悪い結果も組織にもたらし得ます。ママ友コミュニティーに、ときに生じる閉塞的な空気は、決してママ友に特有のものではありません。
 それは会社組織にも潜んでいるのです。経営者の言動を社員が真似て、それがいつしか企業文化を形成していきます。良くも悪くもです。
 であるなら、経営者は自分の言動に慎重になるべきなのだと思います。見ていないようでも、社員は経営者の背中を見ているものです。
 その背中次第で、会社は良くも悪くもなり得るのです。

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