「プロジェクトチーム」は案件を成功させたいのと、従来の組織構造では対応しきれないという理由から形成されています。日本企業に多く見られるのは、開発部はモノを開発し、生産部はモノを生産するといったいわゆる「部署制」です。
プロジェクトチームと部署制が並立している現状から組織の在り方を考えてみます。
プロジェクトチームとは、「顧客からの案件のほか、特定の事業や計画などを実現するために臨時で組織される集団」のことです。
かなり一般的になっているので、大半の企業がプロジェクトチームそのもの、あるいは似た試みを経験しているかもしれません。
ただ、ここで問題にしたいのは、「なぜプロジェクトチームが組織されるか」ということなのです。
一つには、定義にあるように、ぜひとも成し遂げたい案件に対応するためです。もう一つ、これが重要なのですが、従来の組織では対応できない案件であることを企業自身が知っているからではないでしょうか。
コミュニケーション不足を感じているトップは「部署を超えた社員同士」です。そして、日本企業の一般的な組織の在り方は部署制です。
A社は防犯・防災グッズ、各種セキュリティ用品の販売や取り付け工事などを行なう会社です。その守備範囲は広く、防犯カメラや防犯アラーム、各種カギはもちろんのこと、PC上のデータを守るための各種機器の開発・販売や暗号化対策にまで及びます。
A社に近年、代替わりがありました。
新たに代表となったA社長は、実はA社の経営に歯がゆさを感じていました。
それは、A社は営業部門の中でA、Bの部署に分かれていて、全体としては利益を上げています。しかし、実は、B部署では四期連続赤字で、他部署の黒字で補填されているというのが実情です。
そうした事情は、直前まで取締役事業部長を務めていましたから、もちろん知っていました。しかし、なぜそうなっているかまでは把握していなかったのです。
そこでA社長が何から始めたかというと、どうして赤字がでているか、B部署の徹底的な実態調査です。
そこで確認されたのは、二期で黒字転換するというA社長の目標とともに、それができそうもなければ当該事業から撤退するという決意が明かされました。
A社長から「厳しい仕事になるだろう」との言葉がありました。
なぜなら、懸案となっているのはA社でも古くからある部署だからです。携わっている人数も多く、B部署を束ねているのは最古参の社員です。
もしこの部署がなくなるとなれば、社内の混乱は必至です。
こうしてA社長の下、赤字解消チームが発足したのです。
赤字を解消するためなら、人員削減も、部署の閉鎖も、販路の変更も、何でもアリと宣言され、1枚の大きな模造紙がチームの目の前にA社長によって貼られたのです。
ここに、A社の事業の強みと弱みを細大漏らさず挙げていこうとの意図です。ただ、作業をやりやすくするため、A社長が三つの項目を並べました。
それが①経常業務(開発、生産、マーケティング、販売、サービスなど)、②戦略(他社を凌駕するためのシナリオ)、③組織(組織の在り方、社員の士気、リーダーシップなど)です。
B部署に限らず、A社の強み、弱みをすべて明るみに出そうというのがA社長の狙いでした。
チームは300を超える強みと弱みを挙げたといいます。
A社長には、このやり取りこそがA社の一部署が赤字を垂れ流している原因を如実に表しているように見えました。
A社には「すべての社員が参照すべき拠り所」がなかったのです。
ですから、A社長は会社としての「コンセプト」を改めて定めることを提案しました。何を大切にして商売をするかということを見直してみようということです。
それは「顧客目線になる」というものでした。これを採用してみると、300超の強み、弱みが一つに収斂されていったのです。
要するに、今のA社は、部門ごとに仕事が分かれており、自分たちの仕事には精通していますが、全体の流れに責任はないから、口をはさみにくい。そして興味もありませんでした。
部門ごとに優先度が違いますから、何を決めるにしても時間がかかり、ツケを払わされるのは顧客、一番大事だったのは自分の部門の立場を守ることだったからです。
ですから、A社がすべきは自分たちの利益のためではなく、顧客の利益のために組織を作り直すことだと結論付けられ、その素案が形作られました。これまでの機能別の部門(開発部、生産部、営業部など)ではなく、商品群ごとに部門(一チームに開発部・生産部・営業部全て揃っている)を形成するというのがそれです。
その後の3ヵ月で組織改編を成し遂げました。その骨子となったのが、機能別の部門割から、商品別の部門割への変更です。
これによって、開発、生産、営業の各部門がひとつの部門にまとめられました。もちろん強い反発はありましたが、赤字の原因を論理的に突きつけられると、言い募っていたのは自分たちの都合ばかりであることを反発者も認めざるを得なかったのです。
A社のこうした変革に異を唱え、辞めていった人もいます。しかし、それは少数派であったようです。赤字部署は期限を前にして黒字化を達成できる見込みだそうです。
A社が多大な犠牲を払って断行したのは、機能別から商品別への組織改編です。「顧客のため」になるとの判断からです。
これはあくまでA社の事例ですが、会社の大小、変革の対象にかかわらず、何かを変えようとするなら共通します。今の組織が最適かを常に疑うことに進化の機縁があるのではないでしょうか。