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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

長期的に取り組むべき中堅社員育成

経営

 A社は、大手機械メーカーに勤めていたA社長が脱サラして始めた会社です。
 サラリーマン時代はエンジニアとして、社内システムの開発に従事していました。
 その仕事自体に不満はなかったのですが、勤めていた会社が組織として大きく、しかも縦割りであったため、開発した新システムの導入までに膨大な時間がかかることに大きなストレスを感じていたそうです。
 社内の根回し等を省き、開発に集中したいとの思いが募り、独立を決意し、同じ部署の若手技術者2人と共に、A社長は起業したのです。

 そして創業から10年が経ち、3人でスタートしたA社も7人のエンジニアを抱えるまでになりました。
 堅実な経営により、少しずつ成長を遂げてきたA社にも、創業当時から変わらないものもあります。それが組織のあり方です。
 そもそもA社長の起業動機の一つには、「脱・縦割り」のフラットな組織づくりがありました。ですから今も、A社長をトップに7人のエンジニアが横並びで、営業からシステム検証までをA社長一人で受け持つ体制になっています。

 順調に見えたA社の業績も、ライバル会社との価格競争も激しくなり、A社長も一人ですべてを受け持つ体制に限界を感じるようになってきたといいます。
 といって、エンジニアにはシステム開発に集中してもらいたいという気持ちは変わりません。
 ですから、A社長にとって必要だったのは、戦略を実行に移し、営業を助けながら、社内への目配りまでしてくれる「右腕」の存在でした。A社長は新規雇用に踏み切ったのです。
 早速、「幹部候補募集」の求人広告を出したところ、30通を超える履歴書・職務経歴書が送られてきたそうです。高い報酬も効いたのでしょう。
 そのどれもが高学歴であり、大企業出身者も少なくありませんでした。
 A社長は慎重に面接を行い、金融系企業にいたC君を採用することにしました。32歳という働き盛りで、人柄もよく、頭の回転も速い人物であったそうです。

 A社長は、早速、新幹部のC君を得意先回りに同行させました。「慣れてくれば顧客の半分を彼に任せられるはず」と、C君に期待するところは大きかったそうです。
 ところが入社からわずか3ヵ月後、C君が辞表を提出したのです。
 その理由は、「業務が広範囲すぎて今の自分の力では対応することができない」というものでした。
 面接でもそのことは十分に説明したのですが、「実際にやってみると想像していたのとまったく違った」というのがC君の言い分です。

 A社長は、今回の新規採用は時期尚早だったと自分に結論付けたといいます。「まだ会社が発展途上の段階で、外部から優秀な人材を採用することなど無理があった」と納得しようとしたのです。
 またこれまで通り、しばらくは自分一人で頑張ろうと思うと同時に、心の内で会社の行く末を案じる気持ちが膨らんでいくことをA社長は打ち消すことができなかったといいます。
 振り返ってみると、A社長は、エンジニアとしての仕事に集中させたいとの思いに固執するあまり、いつの間にか自分の会社の体制が硬直化してしまっていたことに気づいていなかったといいます。

 エンジニアがシステム開発に集中することのメリットを維持するためにも、やはり組織を変える必要がありそうです。そして A社において組織を変えるとは、C君の一件を考慮すると、内部の「人材育成」に他ならないとA社長は確信したそうです。
 そしてまた、社員に新たな役割を求めるなら、会社が社員に対して「求める人材像」を明確にした上で、それを実現するための体制を提供する必要があるというのが、A社長が得た教訓でした。

 A社の場合、外部からの採用がうまくいかず、内部の人材育成が適した企業風土だったと言えます。これはケース・バイ・ケースですから、その逆の場合も当然ありますが、重要なのは、まず自社が必要としている人材像を明確にすることだと考えます。
 闇雲に「いい人材がほしい」と言ったところで、漠然としたいい人材など存在しないからです。
 そして、そうした人材を育成したいと考えるなら、会社は社員の自覚に任せるのでなく、社員が自分に求められている役割を明確に認識することができる場を提供すべきではないでしょうか。

 なぜなら、次の世代のリーダーたることと下の世代のお手本たることを同時に求められる中堅社員には、多くの役割が期待されるからです
 そのような状況下、中堅社員に明確な役割認識を与えることは、会社の将来の方向性を決定付ける大切な作業であると考えます。

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