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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

仕事を楽しめない職場になっていませんか

経営

  ほんの10年前と今を比べてみれば、仕事のやり方がまったく変わっていることに気づくでしょう。パソコンは一人一台どころか、複数台もつことも珍しくなくなりました。ラインやメール、インターネットはもはや必需品です。ただ、そうした大きな変化とともに、職場の雰囲気も大きく変わってきているようです。

 転職理由ので必ずランキングに入ってくるのが「人間関係」です。そして転職先の条件として上位にランクされるのが社風です。
 また、転職によって実現したいことには、「より良い人間関係の構築」が挙げられる場合があります。このことを見ても、社風と人間関係が密接な関係にあるということは、容易に想像がつきます。
 また逆に、仕事に不満はあるのだけれど、職場の人間関係が気に入っているから転職を思いとどまるケースもあるようです。
 つまり、それほど職場の雰囲気、人間関係は働く上で重要なことだということです。

 A社には150名超の社員が在籍しています。しかし、10年前まではこの半分でした。
 10年間でA社が急成長したきっかけは新機種の開発にあります。
 あるメーカー向けの機械でしたが、これが評判を呼び、注文が殺到したことでA社は一気に大きくなったのです。
 しかし、順調そうに見える会社でも中を覗けばいろいろと問題があるものです。A社の場合も同じです。
 ヒット商品の開発に成功したころのA社は、活気に満ちた会社だったそうです。
 新規採用だけでは人手が足りず、中途採用も積極的に活用しました。毎月のように新たな顔が会社に見られたほどです。
 社員各人にやりたいことがあって、またそれにチャレンジすることを許す空気がA社には充満していたのです。

 ところが、最近ではそうした雰囲気は消え去ってしまいました。昔からA社を知っている人に言わせると、「まったく別の会社」だそうです。
 一時期の活気は失ってしまったにせよ、A社には過去の遺産があります。例の新機種の注文がコンスタントに入ってきます。また、ヒット商品の実績から独自仕様の機械の注文も途絶えることがありません。
 活気はないけど食うには困らない、それがA社の現状なのです。
 それでは具体的に、A社はどのように変わってしまったのでしょうか。
 いちばん分かりやすいのは、かってのようなチャレンジングな企画が出てこなくなったということでしょう。
 そんな企画がまったくないわけではないのですが、会議を経て、設計に至り、製品としてでき上がってみると、まことに無難なものとなっているというのが実情です。
 ただし、これは言ってみればA社の変化の表層に過ぎません。こうなってしまったのには、もっと根深い問題が横たわっています。ほとんどの社員がそれを肌で感じています。

 社員が問題を肌で感じていながら、口に出せないというところがもっとも厄介で、A社の抱えるものの根深さを表しています。
 それはこういうことです。A社の要たる部署は商品企画部とシステム開発部です。商品企画部で練られた案件がシステム開発部に持ち込まれ商品化されるという流れです。
 いつごろだったのか、このふたつの部署の関係がギクシャクし出したのです。
 当初はちょっとした違和感だったのが、今では上がってくる企画書のほとんどがシステ
ム開発部によって撥ねられる始末です。商品企画部は「またか」と腹を立て、システム開発部は「愚にもつかないものを」と呆れ返っているという関係です。
 関係が変わり始めたのは、ヒット商品誕生から2年後あたりからでした。目に見えて各部署が忙しくなりました。
 生産が拡大したのはもちろんです。のみならず、合理化を進めるために新たなシステムが導入されて、これまで3人でやっていた仕事を2人でやるようになりました。
 無論、仕事の進め方もガラッと変わりました。

 仕事の合理化は社員のためを思った試みでしたし、ほど良いプレッシャーは仕事に張りを与えるはずでした。ところが皮肉なことに、すべてが悪い方に転んでしまったのです。
 みんなが目の前の仕事をこなすのに一杯いっぱいになり、他人を顧みる余裕をなくしていきました。プレッシャーはチャレンジよりも失敗をしないという保身に傾きました。
 もちろんA社長はこの問題に気づいており、それなりの手を打ってきたつもりです。しかし、社内の雰囲気が改善するどころか徐々に悪くなっていくばかりです。
 いよいよ危機感を強くしたA社長が、思い切った手に打って出たのは2年前のことでした。ある朝、パソコンを立ち上げた各部門長が目にしたのは、新たな研修を招集する旨を通達するメールでした。
 部署は違えど部長たちの反応はおおむね共通していました。「この忙しいのに冗談じゃない」「今さら何の研修だ」というように、否定的なものばかりでした。

 とまどい顔で集まった部長たちに告げられたのは、主に次のことです。この研修がA社長発案によるものであること、一般的な研修のようにプログラムはなく、参加者自身が課題を見つけ本音で話し合う場、これというゴールは設定されていない。
 研修はA社の雰囲気をそのまま映したように、互いが警戒し合ってギクシャクしたなかで始まったといいます。
 研修の雰囲気が大きく変わったのは4回目の会合だったそうです。影響力の大きい商品企画部B部長の発言がきっかけでした。「昔はもっと言いたいこと言い合ってたよな。だから今日は言いたいことを言うぞ。俺たちが出す企画をことごとく却下するのはどういうわけなんだ」
 発言が向けられたのはシステム開発部C部長です。
「それなら言うが、仕様書は穴だらけだし、コストを考慮しているとは思えない。そもそも実現性のない企画をどうやって形にしろというのだ」 
 これを口火に、その後も言い合いが続いたそうです。

 不毛な罵り合いと言うのは簡単ですが、こんな光景は何年もA社になかったことですし、確かに企画と開発の関係は変わり始めました。
 ある日、B商品企画部長が直接Cシステム開発部長に企画書をもっていくと、Cさんはざっと目を通し一言、「無理だよ」と発しました。そしてちょっと照れたように、「時間あるか。どうやったらできるか一緒に考えよう」そう続けたのです。
 その後の研修を通して、システム開発部のリスクを前工程の商品企画部に負担させていたことが確認されました。また他部署間の問題点も議題となり、解決のための議論が建設的にされたそうです。

 A社長は今回の研修に介入はしませんでしたが、十分な手応えを感じているそうです。 なぜなら、社員が仕事が本来内包している楽しさを取り戻しつつあるからです。
 ITによる合理化、過度の成果要求、専門性の高度化等々、色々な理由から自分の殻に閉じこもり、失敗しないことだけに汲々として仕事のワクワク感を忘れてしまった職場が多いとききます。
 環境を整えて、仕事は楽しいものだと社員に実感させてあげるのも経営者の大事な仕事なのではないでしょうか。

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