2024年3月31日に働き方改革関連法による「時間外労働の上限規制」の適用猶予事業・業務に係る猶予期間が終了することで、特に運輸業界への影響は大きなものと予想されます。
上限規制の適用猶予
時間外労働の上限規制は2019年4月に施行され、中小企業は1年間猶予されて、2020年4月から適用されています。
その中でも、一部の事業・業務については、長時間労働の背景にある業務の特性や業界内の商慣習に対する課題などを考慮して、適用が5年間猶予され、さらにはー部特例つきで適用されました。これを適用猶予事業・業務といい、①工作物の建設の事業、②自動車運転の業務、③医業に従事する医師、④鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業の4事業・業務が該当します。
この5年間の猶予措置が終了するのが、2024年3月31日なのです。特に、②自動車運転の業務を主とする運輸業界に大きな影響が起こると予想され、「2024年問題」として、その対応が急がれています。
上限規制の影響
2024年4月以降、時間外労働の上限規制が適用されると、ドライバーの拘朿時間が減少することにより、1日に運ぶことができる荷物量が削減され、自動車運送事業者の売上げ・利益の減少、それに伴うドライバーの収入の減少や担い手不足など、様々な問題が懸念されています。その結果、物流の停滞や、生活交通路線の廃止・減便、観光客輸送への支障などが生じるおそれがあります。
直面する主な労務課題
① 人材確保対策(採用・育成・定着)
②「同一労働同一賃金」への対策
③ 改善基準告示の改正(2024年)
④ 法改正等に即した社内規定・賃金体系の整備
⑤ 行政処分防止対策(労働時間管理、健康管理、労災防止他)
⑥ 最低賃金大幅上昇に伴う人件費増加対策
上記①~③、⑥の対策は合わせて検討し準備する必要がある重要課題です。
トラック運転者の「改善基準告示」が改正
令和6年4月から適用されます
改善基準告示の改正は、労働基準法による時問外労働上限規制と密接な関係にあり、自動車運転者の36協定にも大きな影響を及ぼすため、十分に留意する必要があります。
「改善基準告示」
1.1年、1か月の拘束時間
1年:3,300時間以内
1か月:284時間以内
【例外】 労使協定により、次のとおり延長可(①②を満たす必要あり)
1年:3,400時間以内
1か月:310時間以内(年6か月まで)
① 284時間超は連続3か月まで
② 1か月の時間外・休日労働時間数が100時間未満となるよう努める
2.1日の拘束時間
13時間以内(上限15時間、14時間超は週2回までが目安)
【例外】 宿泊を伴う長距離貨物運送の場合((注)1)、16時間まで延長可(週2回ま
で)
(注1):1週間における運行がすべて長距離貨物運送(一の運行の走行距離が450km
以上の貨物運送)で、一の運行における休息期間が住所地以外の場所におけ
るものである場合
3.1日の休息期間
継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、9時間を下回らない
【例外】 宿泊を伴う長距離貨物運送の場合((注1)、継続8時間以上(週2回まで)
休息期間のいずれかが9時間を下回る場合は、運行終了後に継続12時間以上
の休息期間を与える
4.運転時間
2日平均1日 : 9時間以内 2週平均1週 : 44時間以内
5.連続運転時間
4時間以内
運転の中断時には、原則として休憩を与える(1回おおむね連続10分以上、合計
30分以上)
10分未満の運転の中断は、3回以上連続しない
【例外】 SA・PA等に駐停車できないことにより、やむを得ず4時間を超える場合、4
時間30分まで延長可
6.予期し得ない事象
予期し得ない事象への対応時間を、1日の拘束時間、運転時間(2日平均)、連続運
転時間から除くことができる((注2、3)
勤務終了後、通常どおりの休息期間(継続11時間以上を基本、9時間を下回らな
い)を与える
(注2):予期し得ない事象とは、次の事象をいう。
・運転中に乗務している車両が予期せず故障したこと
・運転中に予期せず乗船予定のフェリーが欠航したこと
・運転中に災害や事故の発生に伴い、道路が封鎖されたこと又は道路が渋滞した
こと
・異常気象(警報発表時)に遭遇し、運転中に正常な運行が困難となったこと
(注3):運転日報上の記録に加え、客観的な記録(公的機関のHP情報等)が必要。
7.特例
分割休息(継続9時間の休息期間を与えることが困難な場合)
・分割休息は1回3時間以上
・休息期間の合計は、2分割:10時間以上、3分割:12時間以上
・3分割が連続しないよう努める
・一定期間(1か月程度)における全勤務回数の2分の1が限度
2人乗務(自動車運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合)
身体を伸ばして休息できる設備がある場合、拘束時間を20時間まで延長し、休息
期間を4時間まで短縮可
【例外】 設備(車両内ベッド)が((注4)の要件を満たす場合、次のとおり、拘束時間
をさらに延長可
・拘束時間を24時間まで延長可(ただし、運行終了後、継続11時間以上の休息期間
を与えることが必要)
・さらに、8時間以上の仮眠時間を与える場合、拘束時間を28時間まで延長可
(注4):車両内ベッドが、長さ198cm以上、かつ、幅80cm以上の連続した平面であ
り、かつ、クッション材等により走行中の路面等からの衝撃が緩和されるも
のであること
隔日勤務(業務の必要上やむを得ない場合)
2暦日の拘束時間は21時間、休息期間は20時間
【例外】 仮眠施設で夜間4時間以上の仮眠を与える場合、2暦日の拘束時間を24時間
まで延長可(2週間に3回まで)
2週間の拘束時間は126時間(21時間×6勤務)を超えることができない
フェリー
・フェリー乗船時間は、原則として休息期間(減算後の休息期間は、フェリー下船
時刻から勤務終了時刻までの間の時間の2分の1を下回ってはならない)
・フェリー乗船時間が8時間を超える場合、原則としてフェリー下船時刻から次の
勤務が開始される
8.休日労働
休日労働は2週間に1回を超えない、休日労働によって拘束時間の上限を超えない
今回の改善基準告示の改正は、特に運送業においては労働基準法改正以上に厳しい内容であり、早急に改善の検討を進め、ドライバーの労働時間削減を実現すべく体制の構築を進める必要があります。トラック運送業の対応策の1部を挙げると、以下の通りです。
ア 荷主と交渉して待機時間を削減
① ドライバーが荷主に到着時刻や積卸し開始時刻を予約できる管理システムの導入
② 待機時間料を収受して待機時間の削減につなげる
③ 運転業務と荷役作業の担当者を分離して専任化
イ 荷役作業や事務作業の効率化
① 手積手卸しによる荷役を見直し、パレットを利用したフォーク積みに変更
② 作業環境を改善して作業効率を高める
③ デジタコやIT点呼の利用、その他管理システムの導入
ウ 中継輸送、車両の大型化、同業他社との連携
① 長距離輸送における中継輸送の検討
② 大型トラックからトレーラーへの切替えなど
エ 賃金制度の見直し
① 労働時間が削減されてもドライバーの賃金が大きく下がらない賃金制度を構築
② 賃金決定基準を「時間」から「技能と業績」を中心に処遇する体系に移行
③ 労働時間削減の取組みに協力して結果を出した社員への評価報償制度の導入
従業員の「賃金」を維持する
「労働時間短縮とともに賃金が減少したら」をドライバーに質問すると、
・賃金が減っても労働時間が減るなら満足かは反対
・労働時間が減るのは大歓迎だが、賃金が減るのは大反対
・賃金が減額したら他社への転職を考える
これが素直な気持ちです。
人材離れを防止するためには、労働時間の短縮を図りつつ、賃金の減額を極力避ける仕組みの構築が必要です。
賃金体系改善のポイント
① 労働時間短縮に伴い従業員の賃金が大幅な減額にならない制度
② 頑張った社員が正当に報われる賃金体系
③ 時間ではなく、実績・貢献度で処遇して職場の生産性を高める制度
④ 人事評価を毎月の賃金に反映し、従業員のモチベーションを上げて会社が求める人
材像に近づけていく仕組み
⑤ コンプライアンスを重視し、効率的かつ賃金トラブルを防止する仕組み
以上の観点で現行の賃金体系を再点検し、2024年問題に向けて早急な検討を行う必要があります。