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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
整備、評価・処遇制度の構築など、人に関わる分野から経営を
サポートいたします。
社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

テレワーク導入による働き方改革

労働・社会保険・助成金

 新型コロナウイルスの影響で在宅勤務や時差出勤を急きょ導入する企業が増え、働き方改革の後押しにつながるとの声も聞かれます。
 10年ほど前と比べると、テレワークやクラウドサービスなどが普及しており、中小企業の導入率はまだ低いものの、政府もテレワーク導入にかかる費用助成を開始しており、普及が進むことが期待されます。

 こうしたテレワークが普及した場合、今後どんな対応が必要なのか考えたい。

 まず、テレワークが普及すれば、会社は、部下への適切かつ効率的な仕事配分と、生産性に見合う公正な評価制度を確立することが求められます。

 次に、職場で学習する機会が減ることが考えられます。早帰りで増えた余暇時間を従業員が自発的に勉強すればよいのですが、自己啓発の時間を増やすかどうか。
 テレワークの普及により職場以外で仕事をする時間が増えれば、上司や先輩から直接指導を受ける機会も減ります。会社は新たなOJTの方法を検討する一方、従業員は時代に即したスキルを自己責任で蓄積することが必要になります。

 さらに、「いつでもどこでも」仕事ができる状況が広がれば、仕事と生活の境界が曖昧になることも注意すべき点です。

 企業は、在宅勤務実施の課題を整理し、検討を急ぐ必要があるように思います。

テレワークとは

 テレワークとは、「tele = 離れた所」と「work = 働く」をあわせた造語で、情報通信技術(ICT )を活用した、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方のことです。
 例えば、インターネットなどのICTを利用することで、本来勤務する場所から離れ、自宅などで仕事をすることができます。
 
 テレワークは働く場所によって、自宅利用型テレワーク(在宅勤務)、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務の3つ分けられます。

在宅勤務:オフィスに出勤しないで自宅を就業場所とする働き方です。1日の業務の全てを自宅で行う場合には、通勤負担が軽減され、時間を有効に活用できます。

モバイルワーク:移動中(交通機関の車内など)、顧客先、カフェ等を就業場所とする働き方です。営業担当者などが外出先で仕事を完結することで無駄な移動時間を削減し、身体的負担も軽減できます。

サテライトオフィス勤務(施設利用型勤務):所属オフィス以外の他のオフィスや施設を就業場所とする働き方です。例えば、自宅近くのオフィスにテレワーク専用作業スペースを設けて勤務するなどです。職住近接の環境を確保し通勤時間も削減できます。

在宅勤務等テレワークの導入の手順(就業規則の定め方他)

  在宅勤務等テレワークの導入の手順は、おおむね次のようになります。

1 全体方針の策定・労使での合意形成
  在宅勤務等テレワーク導入の目的を明確にし、全社で共有します。社内推進体制を構築し、何を目的にどのような業務、どのような人を対象に導入するかなどを定めます。
 この過程で現在の業務の洗い出しなども手がけるべきです。効果検証がしやすいように、まず小規模な試行から始めるのが適切、とも言われています。

2 ルールの策定
  就業規則、またはテレワーク勤務規程で次の事項を定めます。

就業規則が必要な理由

    通常勤務とテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務をいう。以下同じ。)において、労働時間制度やその他の労働条件が同じである場合は、就業規則を変更しなくても、既存の就業規則のままでテレワーク勤務ができます。
 しかし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合があり、その場合には、就業規則の変更が必要となります。
 また、テレワーク勤務の導入に際して、例えばフレックスタイム制を採用したい場合は、既存の就業規則にその規定が定められていなければ、就業規則の変更が必要となります。

 一般的に、テレワーク勤務を導入する場合、就業規則に次のことを定める必要があります。
・テレワーク勤務を命じることに関する規定
・テレワーク勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規定
・通信費などの負担に関する規定

(規定:委任規定例)
 就業規則(適用範囲)
 第 条 この規則は、○○株式会社の従業員に適用する。
 2 パートタイマーの就業に関する事項については、別に定めるところによる。
 3 従業員のテレワーク勤務(在宅勤務、サテライトオフィス勤務及びモバイル勤務を  いう。以下同じ。)に関する事項については、この規則に定めるもののほか別に定めると  ころによる。

テレワークに関するルールづくりには次のような手順が考えられます

  ① テレワークの対象業務や対象者の範囲を決定します。
  ② テレワークは、自律的・自己管理的に仕事を進めることが求められるため、仕事の進め方や報告・連絡など、会社の規則やルールを理解していることが必要です。
  ③ テレワークを導入する場合には、就業規則などにテレワーク勤務に関する規定を定めておくことが必要です。
  ④ テレワーク利用者とオフィス勤務者とが連携しやすいよう、コミュニケーションの方法などについて取り決めます。

テレワークでも労働基準法等は適用されます
                                       
 在宅勤務、モバイルワーク、サテライトオフィス勤務のいずれのテレワーク時においても労働基準法などが適用されます。
 特に、自宅でのテレワークについては、次の事項に留意が必要です。
 ① 労働条件の明示
 ② 労働時間の把握
 ③ 業績評価・人事管理等の取扱い
   業績評価や人事管理について、会社へ出社する従業員と異なる制度を用いるのであ  れば、その取扱い内容を丁寧に説明しておく必要があります。また、就業規則の変更手続が必要となります。
 ④ 通信費・情報通信機器等の費用負担
   在宅勤務等を行う従業員に通信費や情報通信機器等の費用負担をさせる場合には、 就業規則に規定する必要があります。
 ⑤ 社内教育の取扱い
  在宅勤務等を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合にも、当該事項について就業規則に規定しなければなりません。

テレワーク時の労働時間の管理方法
                                       
 労働時間の管理には、①始業・終業時刻の管理と②業務時間中の在席確認の2つの観点があります。
1 始業・終業時刻の管理
 【報告の方法(例)】
 ・Eメール
 ・電話
 ・勤怠管理ツール(始業・終業時刻等を管理することができるシステム)
 ・業務中に常時通信可能な状態にする 

 【業務を中断する場合】
  所定労働時間中に業務を中断することを認める場合について、その運用ルールをあら かじめ決めることが必要です。
  特に、育児・介護を行っているテレワーク利用者は、個人のやむを得ない事情によって業務を中断する必要が生じる可能性がありますが、労働時間管理や情報共有に関するルール化が求められます。

2 在籍・離席確認
 在席・離席が確認されることによって、「勤怠の管理が難しい」という管理者の不安や、「テレワーク時に仕事をさぼっていると思われていないか」「評価が下がるのではないか」というテレワーク利用者である従業員の不安が軽減できます。
 また、始業・終業時刻の確認のほかに、労働時間中に適正に業務が行われているかを管理することが必要な場合もあります。

【在席・離席の確認方法(例)】
 Eメールや労務管理ツールなどによって、在籍・離席状況を確認することができます。
 例えば、子どもの送迎などによって業務を中断する場合は、その都度、労務管理ツールなどを操作するというルールの確立が必要です。

自宅でテレワークを行う場合の「事業場外労働のみなし労働時間制」
                                       
 在宅勤務であっても、次の一定の要件を満たせばみなし労働時間制を利用できます。
 ① テレワークが、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
 ② テレワークで使用しているパソコンが使用者の指示により常時通信可能な状態となっていないこと
 ③ テレワークが、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと

テレワーク実施時の業績等に関する業務評価は
                                       
 テレワークを労働者が職場に出勤しないことなどから、業績評価等について懸念を抱くことのないように、評価制度、賃金制度を構築することが望ましいです。
 テレワークを導入した揚合、テレワークの実施日ごとに実施内容を上司と部下で確認し、一定期間ごとの評価について従来どおりの業務評価に基づいて行うことで、テレワークによる業務を適正に運用することができます。

 テレワーク実施の際に要した通信費・水道光熱費などの費用の負担
                                       
 テレワークに関わる費用負担区分については、テレワークを導入する前に、通信費・水道光熱費など負担について明確なルールをつくり、従業員に対して、丁寧に説明することが必要です。

 労働基準法第89条第1項第5号では、「労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならない。」と規定されていますので、必要に応じて就業規則の変更をしなければなりません。

 【費用の発生例】
 ① 情報通信機器の費用
 ② 通信回線費用
 ③ 文具、備品、宅配便等の費用
 ④ 水道光熱費

 セキュリティルールの策定
                                       
 テレワークでは、従業員が業務に関わる情報をオフィス外で利用することになります。
 業務に関わる情報は全て企業にとって「情報資産」ですので、導入に当たっては、セキュリティの方針や行動指針に基づく安全な利用が必要です。
 また、オフィス外で仕事をする時に懸念される点として、端末そのものの紛失・盗難、セキュリティが確保されていない公衆Wi-Fiの使用、ウイルスへの感染などがありますので、端末自体のセキュリティ強度を上げてデータの漏洩を防ぐことも重要となります。
 さらに、テレワーク実施者が、「利用する情報資産の管理責任があること」を自覚して行動をとることが重要です。
 つまり、技術的なセキュリティ確保と人為的なセキュリティ確保との両面が必要となります。

テレワークと働き方

 「電車通勤の時間がなくなり、休校中の子供の世話もできる」。自宅で業務を続ける40歳代の男性社員はこう語ります。

 テレワークはもともと東京五輪・パラリンピックの混雑対策として、官民で導入機運は高まっていました。新型コロナを機に様々な企業で前倒しされ、手をつけられなかった無駄を削る好機になる可能性はあります。

 では業務ははかどるのか。

 新型コロナを機に原則テレワークになった企業の営業部門に務める男性社員は自宅で仕事をし、顧客企業への訪問も最小限に抑えている。先方の顔が見えず「空気がつかみづらく営業マンとしてもどかしい」。未就学児の子供が家の中を走り回り、業務効率が下がることもあると言う。
 ビジネスチャットなど効率化のツールはあるものの、習熟度には個人差があり組織での運用に課題が残ります。

 日本ではインフラの準備不足もみられる。ある企業の部署では所属する社員が原則在宅勤務になったが、社外から社内ネットワークに接続するための通信システムがパンクし、全員一斉だったのを半分ずつの交代制に切り替えたという。

 押し寄せるテレワークの波は、デジタル時代に沿った働き方の改革ができない企業を浮かび上がらせています。
 生産性を高めるため、企業や社員の模索は続きます。

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