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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

ボトムアップを望むなら

人事・労務

A社は、業界では中堅クラスの規模のフェリー会社です。
歴史は古いのに中堅に甘んじている、というのがA社長の悩みとなっています。
A社長はもともと船上勤務者として入社しました。
しかし、ある事情から地上勤務となり、営業、経営企画などの部署を経験し、社長に就任したのは今から3年前のことです。

A社では、船上勤務の者は入社から定年までずっと船上というケースが圧倒的に多く、それは地上勤務の場合も同様でした。
ですから、船上勤務と地上勤務の両方を経験しているというのが自分の強みだとA社長は考えていました。
両方を経験したA社長としては、船上勤務と地上勤務の距離が遠いことがA社の弱点であると考えていたのです。
互いに避けているわけではないのですが、その勤務形態の違いから交流する機会がほとんどないのです。

しかしながら、A社に表立った問題があるわけではありませんでした。
定期航路では開業以来、死亡事故は一度たりとも発生していません。貨物便にしても、顧客の要望によく応えていると言えるでしょう。
急な発注にも人手を増やして積荷の配置を変えて対応するなどしています。
しかし、だからこそ、A社長はそこに問題を見るわけです。問題なく業務を遂行しながら業績は横ばいなのですから。

こうした課題を胸に抱えながら、A社長が就任後最初に行なったのは、旅客、貨物の各航路に自分で乗ってみるということでした。自社の船に乗ることは久しくありませんでしたから、自分の目で確かめたかったのです。
やはり大きな問題は見つかりませんでした。すべての部署の船員がまじめに職務を果たしているのが見て取れました。

それにも拘わらず、A社長は違和感を覚えたまま、目的地で船を降りました。
そこは、A社長が以前勤務していた場所であり、久しぶりの地だっただけに、船員時代によく通った店がまだあるのか、ちょっと確かめてみたくなったそうです。
何十年かぶりでも、町には面影がありました。建て替えられた建物、見覚えのない店舗も多く目につきます。そうしてA社長は当時の行きつけの食堂に入ってみました。
メニューも雰囲気もほとんど変わっていません。

定番メニューの定食を早々とすませると、その足で少し先の喫茶店に向かいます。 
よく頼んでいたアメリカンコーヒーを啜りながら、A社長は自社が横ばいを続ける現状を打ち破るヒントをつかんだ気がしました。と、こんな風に思ったのは、通い慣れたはずの喫茶店に大きな変化を感じたからです。
代替わりしていたマスターに訊いてみると、数年前に雇ったアルバイトの大学生がやたらとコーヒーに詳しく、様々な意見を出して工夫をしたというのです。
「学生にはこんなのがうける」
「他店にはないコーヒーを扱ってみてはどうか」
こんな意見を多く受けた結果、喫茶店ではメニューが格段に増えていたというのです。
この話を聞いたA社長はその発信元がアルバイトの学生、ホールで働く現場の最前線だったことに驚きました。
一方、雰囲気もメニューも昔ながら、片や往時の佇まいを残しながらメニューを更新している。両者の違いにこそ、A社の足りないところが出ている気がしました。

つまり、A社の働きぶりは、これまで継承されてきたものを守るというものです。
たまに突発的な仕事がくれば、それをこなすことに一生懸命になりますが、「現場」は小さな達成感で満足してしまっています。
そして、その突発的な仕事は事務の方からで、すなわち現場発信の仕事ではないということです。
A社長には昔ながらの食堂と重なる思いがしました。
無論、変わらないで昔からのやり方を続けることの価値はA社長だって十分に理解しています。それとは別に、ここでA社長が感じたのは、現場から生まれてくる何かです。
現場から新たな価値が生まれる会社、A社の目指すべき方向が定まりました。

以来A社では、船上と地上の勤務者が一緒になって、自社の問題点を探りだし、その解決に当たるミーティングが開かれるようになりました。
よくあるTQCサークルじゃないかと言ってしまえばそれまでですが、A社ではなかったことですし、そこにA社長も毎回出席したのが興味深いところです。
なぜそうしたかというと、経営陣が本気で現場を変えたいというメッセージを伝えるためでした。

初めは上がってくる提案が、「ファイル棚の整理ができていない」「コピー用紙を使いすぎる」といった無難なものが多かったそうです。それでもA社長は担当者に命じ、一つひとつ確実に改善させたといいます。
そうすると現場の人間は、「私たちの声も届くんだ」と感じ始めたらしく、徐々に経営に大きなインパクトを与えるような提案がされるようになってきたようです。

書いてしまえば簡単かもしれませんが、ここまで来るのには多大な努力が払われました。
なぜなら、現場はちょっとしたことでつまづくからです。
A社長は自分の現場経験から知っていました。
ですから、危ういと感じるたびに現場が力を発揮できるよう環境を見直してきたといいます。それが現場に対して経営陣ができることだとも認識していたようです。
A社の「現場」はだいぶ変わったようですが、企業文化として根付くまでには、まだ数年はかかるとA社長は見ています。

ボトムアップという言葉がありますが、自然発生的なボトムアップなどあり得ません。
ボトムアップはトップダウンからしか生まれません。
これこそ、経営陣と現場とのギャップを埋めるヒントとなるのではないでしょうか。

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