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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

モチベーション向上を考える

経営

 企業で働く人たちが高いモチベーションをいかに維持するかは、企業にとってのみならず社員にとっても重大事です。
 社員がやりがいをもって生き生きと働けなければそれは不幸ですし、会社の業績も上がるはずがありません。では一体、どうやって社員のモチベーションを向上させて、企業と社員の親和性を高めればいいのでしょうか。企業理念、企業文化を念頭に置きながら、その具体的方法について考えてみます。

 会社にとって、そこで働く人たちが会社や仕事に対してエンゲージメント(愛着・思い入れ)を持っていることの大切さは言うまでもありません。
 そうでない場合と比べると、生産性や離職率に大きな違いが出るだろうことは容易に想像がつきます。
 では一体、どうしたら会社と社員の結びつきを強化できるのでしょう。高いレベルでモチベーションを向上させるにはどうしたらいいのでしょうか。

 働きぶりに応じて給料をアップさせたり、ボーナスを支給するというやり方は、これまで多くの企業で採用されており、常識的な方法であると考えられてきました。お金がなければ生きていけませんから当たり前と言えます。
 ただし、他の要素があることも忘れてはいけないでしょう。おそらく、これらの要素は独立してあるのではなくて、すべてが絡み合ってモチベーションを形成しているのだと思います。

 A社はある地方都市でビジネスホテルを経営する会社です。県庁所在地と県内第二の街にホテルはあります。
 いわゆる地域密着型と言ってよく、値段の割にサービスの質の高さで評判をとっています。出張で来るときは必ずAホテルと、定宿にしてくれている顧客も少なくないそうです。
 先々代が地元で民宿を開業したのがA社の始まりで、先代のときにビジネスホテルに鞍替えしたという歴史があります。
 そして現在、A社長に受け継がれています。幼いころからホテルという場所に親しんできたため、大学では当たり前のように観光学、ホテル経営学を専攻しました。
また、この時分のA社長の趣味といえば、一流と評価されるホテルや旅館に泊まることでした。アルバイトで稼いだお金はそんな経験を積むために大部分が費やされたといいます。
 そうしてA社長は、家業を継ぐ前からある抱負を考えるようになっていました。
それはAホテルをビジネスホテルというカテゴリーの中で最高ランクに育て上げるというものです。
 代替わりを告げられたときに、A社長は自分の夢を先代に伝えました。
 それはAホテルをより洗練させることでしたから、先代も当初は取り立てて異議を唱えることはありませんでした。しかし、よくよく聞いてみると、先代からすると早急で過激に映ったようでした。

 A社長のやりたいことを実現しようとすれば、経営方針を根本から練り直す必要がありました。さらに、かなりの額の投資が必要なことも明らかでした。
 先代にしてみれば、長年勤めてくれている社員も多いことから、大幅な方針転換に彼らが戸惑いはしないかという懸念がありました。
 また、率直に言ってしまえば、自分が育ててきたホテルのやり方をガラッと変えることは、これまで自分がやってきたことを否定される感覚でもあったそうです。
親子で激しい言い争いになったことも一度ならずありました。それでも互いの葛藤の末、A社長の方針を先代が納得してくれ、その旨が全社員を前にA社長の口から伝えられたのです。
 作業のスタートは、全社員を巻き込んでの新たな企業理念の作成でした。
 そうこうして、①ホテル業の根本を人が人を思いやることと捉え、常に新たなベストを目指してサービス向上に努める②妥協のないおもてなしを実現するのは私たち全員であり、そのために役職の壁を超える必要があることを心得る、という企業理念が採用されるに至りました。

 新たな企業理念が決定された当初、Aホテルは湧き立つような雰囲気に包まれたそうです。A社長の期待も膨らみました。
 ところが、理念を実現するための施策は遅々として進みませんでした。社員が具体的にどんな行動をとればいいのか分からなかったからです。
 のみならず、先代が懸念した通り、実は今回の方針転換を快く思わなかったベテラン社員が居たことも、理念に向かって前進することを阻む要因となったようです。
ですから、A社長が感じていたのは、企業理念と具体的行動の乖離、簡単に言ってしまえば、言っていることとやっていることが違うということでした。
 A社長はこのギャップを埋めるために、経営者としてできることを模索する必要性に迫られました。大切なのは社員たちに企業理念に対する心からの愛着を感じてもらうことです。
 そこで実行したのが、ボーナスの査定指標の50%を、『どれほど企業理念に沿った提案をしたか』、『具体的行動をとったか』にすることでした。

 報酬体系と企業理念を直接的に結びつけることで、理念を実現するために努力をすれば報われるという明確なメッセージを送ったわけです。


 もちろん一方で、人が働くことのモチベーションが金銭だけではないことをA社長は重々承知しています。
 自分の仕事が実際に人の役に立っていること、喜んでもらえていることの実感は、何より正しく何より嬉しいフィードバックであると考えています。
 そして、その仕事が目先の利益のためではなくて、理念に掲げたようなより大きなものにつながっていると感じられたら、さらなる喜びが得られるはずです。

 こうした実感を得るためにA社長が考えたのは、宿泊者へのインタビューを動画撮影することでした。
 Aホテルでは以前から顧客満足度向上のためにアンケートを実施しており、そこに感謝の言葉がつづられていることもありました。
 たしかに励みにはなりましたが、もっと生の声を感情豊かに語ってもらうことを企図したのです。
 インタビューはすべての部署の評価が得られるように配慮され、とりわけ普段は宿泊者と直に接する機会のない部署向けには力が入れられました。
 例えばこんな映像ができ上がりました。朝食メニューを充実させたことを受けて、宿泊者お気に入りの一品、仕事の前に元気をもらっているコメントが彼らの笑顔とともに届けられました。

 好ましい企業文化は理念の存在によって形成されるものではありません。理念を実践する日々の積み重ねによって形づくられるものです。
 そして企業理念を実践するためには、外からの報酬だけでなく、内なる喜びを刺激して理念とのつながりを実感することも必要なはずです。
 大切なのは外側からと内側からのモチベーションを組み合わせることではないでしょうか。
 その組み合わせは企業によっていろいろやり方があると思います。検討されてみてはいかがでしょうか。

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