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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

もっと女性の力を活用できないか

経営

  日本で進行中の「少子・高齢化」に対する警鐘が鳴らされるようになって久しく、その影響は社会保障費の大幅増といった視点で語られることが多いようです。
 それだけでなく、この少子・高齢化はまた別の問題も生じさせます。それは将来における労働力人口の減少です。少子・高齢化は長期的に見れば、仕事から引退する人が新たに働き始める社会人より多い、という状況ですから、平たく言ってしまえば、働く人が減るということになります。
 本格的な少子高齢化社会を迎える中で、就業意欲のあるすべての人が就業できる環境整備が課題となっています。

 そこで、少子高齢化が進行する中、「女性の能力活用」について考えてみます。
 A社は、紙製品の卸を営んでいる会社です。現在は二代目のA社長が跡を継いでおり、地元では老舗として知られています。
 しかしながら、老舗ならではの苦悩というものがあるのでしょうか。A社長がここ最近感じていたのは、一言で言ってしまえば「閉塞感」というもので、どこか組織が目詰まりを起こしているのではないかという気がずっとしていたそうです。

 A社は老舗だけあって、どちらかといえば保守的な会社で、通常の業務に男女の区別はないのですが、重要なポストのすべてを男性社員が占めています。言ってしまえば、男性優位の会社だったということです。
 A社長が跡を継いでからも、職制をいじることはしませんでした。
 しかし「このままでは早晩立ち行かなくなる」というのが、今やA社長の率直なところになっていました。
 というのも、ものになりそうな新商品を見つけてくるのは、ほとんど女性社員です。「わが社には優秀な女性社員が多い」というA社長の認識は強まっていきましたが、管理職は男性ばかり。優秀な社員が能力を発揮できていない状況を見るにつけ、これまで手をつけてこなかった職制を変えるべき時が来たと感じていたのです。

 その改革の手立てというのが、女性社員の管理職登用でした。
 といって、簡単に行かないのはA社長には十分に予想できました。男性社員の反発も考えられます。出産、子育てを支援する制度も必要になるでしょう。
 そこでまず、A社長は女性社員を管理職に登用していくこと、それと並行して女性がもっと働きやすくするための出産、子育支援制度を全社員に向けて発表したのです。
 これは、A社長にとっては、もっと仕事をがんばりたいと思っている女性社員にも歓迎されるだろうと考えていました。
 ところが、です。

 制度導入から半年、女性管理職を目指そうと自ら手を上げた社員は皆無でしたし、A社長がかねてから評価していた複数の女性社員に「管理職を目指してみないか」と水を向けてみても、返ってくるのは辞退の声ばかりだったといいます。
 
彼女たちが口を揃えて言うのは、「実際、仕事と家庭を両立している女性管理職は、まだ会社にいないので、 そうなるとやっぱり不安になる」ということでした。

 こうした事態は、さすがにA社長も予想していなかったようです。もちろん「制度を利用しろ」と強制するわけにもいかず、どうにも八方ふさがりの日々が続いたのです。
 そこでA社長は、支援制度を利用しながら仕事と家庭を両立させている女性を、まずは自分で探してみようと思い立ったといいます。
 つてをたどってみると、同じ県内にその会社はありました。女性をうまく活用している会社として何度もマスコミに取り上げられたことがあるのが、そのB社だったのです。
 A社長は早速、先方に話を通し、幹部と連れだってB社を訪れました。女性幹部(Bさん)との面談はA社長にとって有意義なもので、とんとん拍子にA社の女性社員と懇談会をもつ話がまとまったといいます。
 そして懇談会当日、Bさんの実体験が話された後の質疑応答で、女性社員たちから矢継ぎ早に質問が出る光景に、A社長は「わが社の女性たちはこんなに不安を抱いてたんだ」と実感したそうです。
 こうしたことを何度か繰り返し、A社長自身も女性社員から直接話を聞いて、最終的にA社長が考えたのは「働きながら幸せになれる」と思えるような会社にしようということでした。

 そのためには女性を支援する「制度」だけでは不十分なことは、今や明らかでした。考えてみると、これまでは育児休暇にしても、短時間労働にしても、そうした女性の働き方を「許容する」という意識だったことにA社長は気づいたそうです。
 そうではなくて、本当に女性の力を活用したいなら、そういった働き方を「評価する」
ことこそが必要であると思い至ったというのです。すなわち、A社に必要だったのは「文化」だったというのがA社長の答えです。
 現在のA社はまだ試行錯誤の中にはあるそうですが、はっきりと変わったのは、女性社員の離職率が格段に下がったことで、どうやらA社初の女性管理職誕生も近そうだということです。

 ここで重要なのは、A社長がなぜ上記のような施策に取り組んだのかをもう一度確認しておくことです。それは会社を強くするために、それが必要だったからに他なりません。
 働きたいと思っている優秀な女性が、仕事と家庭の両立が難しいという理由で会社を辞めてしまうのは、本人にとっても会社にとっても、いかにももったいないことです。
 もし子育てによって短時間しか働けないとしても、そうした状況で働こうとする女性は、その限られた時間で懸命に成果を上げようとするはずです。
 「女性が定年まで働ける環境」という考え方は、これまであまり中小企業には取り入れられてこなかっただけに、それをうまく「企業文化」とできるなら、その成果は余計に著しいのではないかと考えるのです。

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