6f62966b1de45c12514a6c6fa30f94fb_m-1
赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
整備、評価・処遇制度の構築など、人に関わる分野から経営を
サポートいたします。
社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

「イエスマン」の問題は組織活力喪失の問題

経営

 イエスマンとは上司や先輩など自分にとって影響力のある人や権威のある人に対してご機嫌取りをする人の一種で、目上の人からの頼まれ事や意見に対して「はい」「いいですねえ」といった肯定的な返答しかしない人のことです。
 もう随分前の話になりますが有名な老舗料亭での「食べ残し食材使い回し」が問題になりました。先の客が残した料理を、次の客に出すという話です。
 この問題は組織経営の視点に立てば、一般に取り上げられている問題以外のところに、非常に重要なポイントがあるように思えます。

 あるコンビニエンス・ストアで働くAさんは、前職の時から「仕入れ」に興味を持ち、コンビニでは「端末機」から、直に発注できるという仕組みを非常に気に入っていました。そして、店長の許可を得て、まさに肌身離さず端末を(店内で)持ち歩く日々が始まったのです。
 そのおかげで、弁当は季節色豊かなものに徐々に変身し、チクワやカマボコなど、女性が帰路に買う人気の食材も増えて行きました。店長は、Aさんのそうした姿勢が頼もしく、ずいぶんと頼りにしていたようです。
 しかし、「春の行楽弁当」を仕入れ過ぎ、大量の「廃棄」を出してしまいます。特に、通常弁当の2倍近くする行楽弁当は、売れ残りで大きな損につながりました。
 売れ残りの要因は天候不順ですが、オーナーにはそうした「リスクをとる」姿勢が気に入らなかったのです。Aさんには菓子類の発注以外を禁止し、自ら弁当や惣菜を仕入れることにしたそうです。

 ところが、今度は弁当類の売上がピタっと止まります。
 それは、一言にすれば「壮年男性感覚で選ぶ弁当」が、OLにそっぽを向かれ、近所の別のコンビニに客を奪われていったからのようです。オーナーもすぐに、そのことに気付きます。そしてAさんに、再び弁当の仕入れを依頼しました。
 ところがAさんの答は「ノー」でした。自分が失敗をしたら店に迷惑をかけるし、今後うまくやる自信がないと言うのです。元気よく端末を持ち歩いていた時とは、もはや別人でした。「責任は問わない」とオーナーが申し出ても、うつむくのみで、結局店を辞めてしまったのです。

 Aさんが別人になった背景は、「行楽弁当」仕入れでの失敗が、Aさんには耐えられなかったようです。特に、退職金で店の権利を買ったオーナーに「迷惑」をかけたという思いは、その後の行動を「委縮」させるのに十分なほど重かったのです。
 迷惑を受ける人が「特定」されればされるほど、私たちは慎重、あるいは臆病になります。漠然と組織が迷惑を受けるなら平然としていられても、目の前の人が痛む時、行動力が想像以上に害されるということです。いったん、そんな意識を持ったAさんは、仕事に向かう「元気」を失って、別人になってしまったのです。

 老舗の厨房でも、同様のことがあったかも知れません。もし現場責任者が「経営が苦しい、何とかしなければ厨房のB君とC君が職を失う」という、具体的な対象が見える強迫観念にかられたとしたら、経営者の言葉に「反論」する元気がなくなってしまうこともあり得るのです。
 こうして「イエスマン」が生まれます。そして一度、自分の気力や価値観を捨てて「イエスマン」になってしまったら、自分の思考を一切止めて命令にのみ従うことになりがちなのです。ただ、厨房はすぐに「イエスマン」になったのでしょうか。これは推測ですが、最初は「反抗」したの゛はないかと思います。ところが「大切なモノ」を見つけ出すことができなかったため、徐々に「イエスマン」に追い込まれて行ったのではないかと考えられるのです。もし「大切なモノ」がもっと早く見つかっていたら、深刻な事態には至らなかったかも知れないからです。

 では、その「大切なモノ」とは、いったい何なのでしょうか。
 見つけるべき「大切なモノ」とは、「工夫」です。
 「イエスマン」とは、工夫を見つけられず、工夫すること自体を「あきらめた」人材のことだと言えるかも知れません。経営者の指示に従うのは、指示に納得しているのではなく、考えることを止めてしまっているからに他ならないのです。

「イエスマン」問題は、工夫の放棄による組織活力の喪失問題でもあるわけです。
 では、どのようにすれば従業員の「イエスマン」化を防止できるのでしょうか。それは「工夫」というキーワードを通じて組織内の連携を深めることでしょう。たとえばコンビニ・オーナーが売れ残りを減らす工夫を一緒に考えてくれないかと依頼すれば、Aさんの態度は変わったかも知れません。経営者と従業員の「工夫の連携」が生まれるからです。

 ただし「イエスマンではダメだ」と言うと、勘違いしてむやみに「反抗」したり「お友達感覚」で経営者と接したりする人材も出てしまうかも知れません。
 しかし、そんな時でも命令や叱責で上から押さえつけるのではなく、適切な「規則やルール」を作って「規則が守れるように工夫しろ!」と命じる方が、効果的な場合が多いのです。命令する際にも「工夫」というキーワードを外さないことは、案外重要なのかも知れません。  
   

Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.