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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

新規事業 起業という視点

経営

 将来にわたる継続的な会社の成長のために、新たな事業を展開しようと考えている経営者は少なくないようです。
 現状を客観的に分析し、将来を冷静に見据えてみると、今の事業を、現在の規模のまま続けていても、成長は見込めないどころか、確保できる利益は下降線をたどるのではないかと懸念する経営者は多いようです。

 こうした状況を打ち破ろうと、経営者は様々な策を実行に移しています。
 A社はフィットネス用品の製造・販売をしている会社です。常に存在する健康市場、ダイエット市場のおかげで経営はまずまず安定しています。
    A社の経営は時代の潮流 に乗ったおかげで、微増ながらも成長を続けています。
 しかし、A社長は「新しいことをしなくてはいけない」と、何かに急がされる気がしていたといいます。
 そのA社長の心情が煮詰まった結果として、A社は新規事業に乗り出すことになりました。その内容はというと、本業のフィットネス用品の製造に関連して、フィットネスクラブの運営に乗り出そうというものです。
 それは単なる思い付きなどではなく、本業が順調なうちにクラブ運営を軌道に乗せ、行く行くはフランチャイズ展開、そしてA社製のフィットネス用品を納入するという青写真があったわけです。

 この新プロジェクトに参加したメンバーは10人だったそうです。その選定はA社長自らが大いに頭を悩ませながら行ったようですが、結局は是が非でも新規事業を成功させたいという思いから、これまでの実績に照らし合わせて、いわゆる「できる」社員を新規事業に参加させることにしました。
 A社長の目論見は、1年目で開業の目処をつけ、2年目でクラブオープン、3年目からは黒字化、というものでした。チームメンバーにもそれは伝えてあります。
 こうしたA社長の意を受けチームがまず取り組んだのは、事業展開に必要と思われる行動をすべて書き出し、それをメンバーが手分けして片っ端から潰していくというものでした。
 また、そこには新規事業に関する各種レポートの作成も含まれていましたが、目を通したA社長の感想は「よく調べてある」というもので、「これなら開業も近い」との印象を受けたといいます。 

 ところが、実際に動き出してみると、スケジュールは遅れに遅れ、2年目も終わろうとしているのに、計画の修正を繰り返すばかりで開業の目処も立ちません。当然、並行して進めていたフランチャイジーの募集も先がまったく見えず、赤字がかさむばかりの事態に陥っていたのです。
 これ以上は本業にも影響があると判断したA社長が向かったのは、先代社長の元でした。

 来意を告げて、一連の事情を説明し、関連書類を並べてみても、先代は一向に書類に触れようともしません。不審に思っていたA社長に先代が放った第一声は、「お前、こんな中期計画だの、事業評価書だの、新規事業には何の意味もないぞ。「新しい事業」だから新規事業なのに、これまでの事業に当てはめて考えているんじゃないのか」というものでした。
 「新規事業というのは、いわば創業することと同じことなんだぞ。それをサラリーマンがやるにはモチベーションが違うことを考えたのか」言われてみればその通りで、いくら新規事業のメンバーに発破をかけようとも、彼らはあくまで雇われている立場ですから、経営者の情熱とは埋めようのない温度差があるはずです。

 それからの数日間は、新規事業のあり方に始まり、メンバーの情熱、そして、権限委譲についてなど、一から新規事業への取り組み方を再構築したのです。
 そして、翌週の会議で、全社員に向かって、この新規事業を将来の基幹事業として捉え、事業として成功すれば事業部を子会社化する考えがある旨を伝えたのです。そしてチーム長を社長に就任させるつもりであることも明言しました。
 また、これまでの意思決定方法も改め、今後はチーム長とA社長の二人だけで最終意思決定をすることとし、しかも意見が相違した場合、基本的にはチーム長の意見を優先するとしたのです。

 こうしたことを踏まえ、新たなメンバーの入れ替えも行ったそうです。
 それからの新規事業メンバーは役員会向けの膨大な報告書作成から解放され、内向きの仕事をしなくて済むようになったおかげで、事業の立ち上げに集中できるようにもなりました。
 そして彼らは、クラブ開業を果たし、とにかくその店舗を黒字化することに注力しました。街頭でのビラ配り、各種キャンペーンの企画、黒字化につながるものなら何でもやったそうです。さらに、フィットネスマシンに自社製品を使うことで低く抑えられた入会金や月会費、そして充実したサービスも話題となりました。

 それから1年、地道な作業の積み重ねが実り、クラブはみごと黒字を達成したそうです。のみならず、他社との提携話や加盟店についての問い合わせが、こちらから持ち掛けてもいないのにポツポツと舞い込むようになったといいます。
 こうした成果は、チームメンバーとA社長自身がまさに「新規事業」であることを強く認識したおかげ」とのことでした。
 つまり、新規事業に必要なのは、過去に経験した別の事業のノウハウを持ち込んでの議論や分析に時間を費やすのではなく、新規事業の成功の可能性を少しでも高める行動を根気よく続けることではないかと、A社長は振り返るのです。

 新規事業の成功率はそれほど高くないのが現実です。半分以下、あるいはもっと低いとも言われています。だからこそ「成功の可能性を少しでも上げるための行動」が重要なのです。成功した新規事業では、「これは「新」事業である」という認識を持ち、それに情熱を傾けられる人選を行っているようです。
 どんなに立派な計画であろうと、それを実行するのは人であり、人を最大限に動かすのは情熱ではないでしょうか。

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