会社組織における情報共有の大切さというのは、経営課題とさえ言えるでしょう。
「報・連・相は」、仕事を進めるうえでの基本となっていますし、経営理念を従業員が共有することで生まれる効果もさまざまに指摘されています。しかし、情報共有という経営課題は、視点をずらせばまだまだ大切なことが見逃されている可能性があるのです。
情報共有で不満が多いのは「部署を超えた社員同士のコミュニケーション」のようです。 言ってみれば社内のコミュニケーション全般に不満があるのが実態のようです。
このコミュニケーションの在り方、情報共有の在り方について考えてみます。
採用の習慣には変化の時期というものがあります。A社の場合、それが1年に数度あるようです。A社は毎年決まった時期に新卒社員、また不定期ながらもほぼ定まった期間に中途社員を採用するのが習わしになっています。
今年は新たに7名の新人が入ってくる予定です。男性5名、女性2名です。
彼らは入社するとまず、新人研修を受けることになります。社会人としてのマナーや仕事のルール、そしてA社の経営理念などを学ぶことになっています。
また、ほとんど同時期に、A社では新たに主任や係長などの役職に就く者たちに対しても研修が行われます。いわゆる管理者研修というもので、マネジメントやメンタルヘルスなどについて実践的な知識を得るそうです。
ただ、今年のA社長には一連の研修に、これまでと違った思いがあるようです。
もちろん研修を重要と位置付けており、その成果を評価するところではありますが、その一方で物足りなさを感じているのです。
世界で広く使われている付箋「ポストイット」は3M社の15%ルールから生まれた商品です。これは、「技術者に対して、勤務時間の15%までを自分で選んだテーマの研究開発に充てるよう奨励する」という制度で、3M社の「ポスト・イット」もこの制度を背景に生まれました。
このやり方は、それぞれの社員がもっている興味、多様性を経営資源として活用することを目的としていることは明らかです。
こうした視点を加えてみると、A社長は自社の研修に代表されるやり方に飽き足りなさを感じてしまったのです。つまり、皆が一斉に同じことを学ぶやり方のことです。それはもちろん大事なことですが、「前提」である気がしたのです。
言うまでもなく会社組織にとって情報共有の大切さはA社長も十分に認識しています。 社員のレベルを底上げしつつ、共通の知識を吸収する機会である研修は、そうした考えの表れとも言えるでしょう。
ところが、社内を見渡してみると、どうも横の連絡がうまくいっているようには思えません。部署間の仲がギクシャクしているというわけではありません。むしろ横の連絡を社員が必要としていないように見えます。
この事態に気づいて、A社長は慄然としたと言います。
一見、何の滞りもなく社内が回っているように見えて、実は組織のなかで部署がそれぞれに孤立していて、それで完結してしまっているからです。
よく組織は生き物と言われることがありますが、A社長の目には自社が一体として生きているようには見えませんでした。
多種多様な人材が欲しくて時間をかけて採用活動をしたのに、それを活かし切れていないということです。それは情報共有の考え方が一面的過ぎたことも遠因として考えられるようです。
こうした現状を受け、新人の入社を待たずして、A社長は15%ルールを自分なりに租借
して、A社でも取り入れたそうです。
もちろん、社員も最初は戸惑ったようです。その時間を何に使っていいか途方に暮れたのです。しかし程なく、それぞれが思い思いに一事に取り組みだしたそうです。
するとふとした時に、互いが取り組んでいることについての会話があちこちで取り交わされるようになりました。
そうした光景自体がA社にはかってなかったものですが、それ以上に意外な人物が意外なことに興味をもっている、あるいは得意なことを社員同士が知ることが新鮮な驚きだったようです。こうした試みがA社の業績に今後どう貢献してくるのかはまだ未知数です。しかしながら、横のつながり、部署間のコミュニケーションが活発化したことは確かなようです。
このA社の経験は、情報共有の在り方と社内コミュニケーションについて考える材料を与えてくれています。会社における情報共有の大切さを疑う人はいないでしょう。ただ、どんな情報を共有することが会社にとって有益なのでしょう。
A社が行っていたように、研修を通して、会社の理念や役職に応じたスキルを共有することは大事です。また、日々の仕事に関して、それに携わる人々がその進捗状況や関わり合い方を共有することも、同じように大事です。
それとは別に、社内で「誰それが何について知っている」という情報共有の仕方があってもいいのではないでしょうか。
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