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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

総務の底力

経営

 あるアンケート調査によると、日本企業の経営課題は「収益性向上」、「売上・シェア拡大」が圧倒的という結果だったそうです。
 こうした結果からも、経営者はすでに「収益性の向上を図りながら、売上・シェア拡大」を実現するための取り組みに着手していることは容易に推測できます。
 そうであるなら、さぞかし会社は活気に溢れているだろうと想像しますが、実はそうでもないというのが実情のようです。

 いずれにしても、会社に元気がなくては、何事もなし得ないばかりか、対外的にも魅力的な会社とは映りません。
 会社に元気がないばかりにさらに売上を落とすという「負の連鎖」に陥ってしまう恐れも否定できないのです。その根拠がどこにあるにせよ、元気のある会社には魅力があるものです。

 そこでA社長がまず考えたのは、自分自身がこれまでの考え方を変えなくては、会社は何も変わらない、ということだったそうです。
 熟慮の末、A社長の頭に浮かんだ着想とは「総務の力を発揮させられないものか」というものでした。
 総務というと、まず「会社の縁の下の力持ち」といったイメージがあるかも知れませんが、A社長もそれは変わりませんでした。
 「会社に元気を出させる」という漠然とした仕事を、ただポンと投げたってうまくいくとは思えません。
 そこでA社長は総務部門の面々に現在の心境を率直に打ち明け、話し合いの場を持つことから始めたのです。

 そのテーマのつかみどころのなさに、最初は総務部門も戸惑いましたが、会議を重ねるうちにA社長と総務の視点の違いもはっきりとしてきました。
 つまりA社長としては、いくら売上が安定していても、経営のスリム化は切実な問題ですから「コスト削減」が念頭にありました。
 一方で総務の意見として、そればかりが前面に出てしまうと経営者の立場の一方的なごり押しと映り、逆に社員の
元気を奪ってしまうのではという危惧が指摘されました。
 両者の言い分を同時に解決するのはいかにも難問ですが、突破口はある営業社員の電話での一言にあったといいます。

 それは「先月と同じでお願いします」という一言でした。

 たまたまその場に居合わせた総務部員が耳にしたのですが、前後の状況から、どうやら電話の相手は仕入れ先の一つと推察されました。
 確認してみるとやはりその通りで、内容は今月分の食材の仕入れ値についてだということでした。
 総務部員にすれば、まったく交渉の気配もなかった電話には大きな違和感を覚えたそうです。
 詳しく聞いてみると、仕入れ先のすべてが長年の付き合いで、毎月決まった分量を決まった値段で納入するという関係にあったことが分かりました。そうなっている理由には、新規の販売先開拓に忙殺され、営業社員の手がそこまで回らないという事情があることも判明しました。

 A社長にこのことを報告すると、それなら仕入れを総務でやってみてくれないかということだったそうです。
 総務部として、異存はなかったそうですが、そこには一つの条件が付されたといいます。 社内コミュニケーションの充実です。このまますぐに仕入れを総務が担当しますと言っても、営業にしてみれば、いくら手が回っていないとはいえ、土足で自分達の領域に踏み入られたようで良い気はしないはずです。
 そこを総務は気遣い、営業部への事情説明だけでなく、全社に向けた告知を、A社長を中心とした総務チームで行ったそうです。その準備期間は実に1カ月にも及び、営業・総務同士の話し合いも10数回にわたって重ねられました。
 事前に徹底した社内コミュニケーションが図られたおかげで引き継ぎに混乱はなく、また対外的な交渉においてはかなりの成果があったようです。
 一方で営業部も負けていませんでした。これまで以上に新規開拓に注力した結果、約10%も売上を伸ばしたそうです。

 こうした総務を中心に据えた一連の施策を通して、結果的に仕入れコストは削減され、他方で売上アップにもつながり、社内に活気が戻ってきたのは確かです。
 ただ、そうした結果の前提として忘れてはならないのが、社内コミュニケーションの拡充にあったというのがA社長の感想です。

 A社長は総務のコミュニケーション能力の高さに感じ入るとともに、その効力をもっと社内の活性化につなげようと新たな取り組みを始めました。
 それは全社会議の実施に始まり、社内報の刷新、社内SNSの導入など、つまり社内コミュニケーションのさらなる充実の試みが総務を中心に行われているそうです。
 社内のコミュニケーションが密になるということは、それだけで組織としての元気につながるというのがA社長の実感です。

 会社組織において、総務部門の役割は「縁の下の力持ち」と表現されることが多いのですが、これは全社の情報に精通していなくてはできないことです。
 総務にはそうした「地力」はすでにあるのですから、その能力をこれまでとは違った分野で活用してみることも一考の余地があると思うのです。

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