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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

「残業」という視点から

人事・労務

 「労働生産性の国際比較2016 年版」によると、日本の労働生産性は、OECD加盟35カ国の中でみると20位。前年(21位)より1つ上昇したが、統計で遡れる1970年以来、主要先進7カ国の中では最下位の状況が続いています。
 労働生産性とは「資源から付加価値を生み出す際の効率の程度」のことですから、日本の場合、一定の資源から生み出される付加価値がそう高いレベルにないということになります。

 世界的に見て高水準にある日本の人件費とその働き方が影響しているだろうということです。経営環境は大きく変わってきているのに、日本人の働き方はそれほど変わっていないのかも知れません。
 そこで 「残業」という視点から、仕事の効率化と付加価値について考えてみたいと思います。
 A社に勤めるBさんは一昨年に男児を出産し、母親としての喜びを感じているはずでした。ところが、どうにもそうはならない事情があったらしいのです。

 A社の中でBさんは企画、デザインの分野を担当しており、その発想力、企画力は周囲も認めるところです。しかし、ある一つの制約がBさんを社内で浮いた存在にしていたというのです。
 その制約とは子育てでした。子供がまだ小さかったため、Bさんは残業ができない状況にあったのです。
 残業はしないで息子を保育園に迎えに行くというのがBさんの方針でした。こうしたBさんの働き方も普段は何の支障もありませんでしたが、繁忙期、あるいは注文が集中した場合はそうはいきません。
 周囲が残業している中、一人そそくさと退社するわけですから微妙な空気が流れます。
には出しませんが「この忙しいのに一人だけ帰るの」といった社員達の意識をBさんはひしひしと感じていたそうです。

 そうした状況下、A社長の奥様が突然の入院をすることになりました。これまで家事全般を一手に引き受けてきた夫人の不在は、A社長の生活を一変させたといいます。
 まず入院という事情から、朝夕の病院通いがA社長の日課とならざるを得なかったようです。
 といって社長業を疎かにするわけにはいきません。
 そこでA社長は、朝夕に自分が会社にいられないことを埋め合わせるため、社員一人ひとりに、始業前に一日の業務予定メール、終業後に業務報告メールを携帯電話に送らせるようにしたそうです。

 携帯メールを使ったのは、電話で話せないという病院事情からでしたが、やってみると字数の制限とA社長を無用に煩わせないようにとの社員の配慮からか、状況を非常によくまとめたメールが届くことにA社長は感心したといいます。
 この方法はうまく回っていたようです。
 予定メールには業務の優先順位、それぞれの仕事にかかる予定時間、報告メールには予定と実際の差異を付記させるようにし、A社長はそれに経営者としての判断を返信するようになっていったといいます。
 このような中、A社長は、ふとあることに気づいたそうです。
 それは、自分が会社にいる時より、皆の仕事ぶりが把握できているのではないだろうか、ということだったそうです。

 同じ空間で仕事をしており、A社長は社員の仕事ぶり、進捗具合を十分に把握していると思っていたのです。しかし、それは節目の納期レベルでの把握でしかなく、日々彼らが何を目指し、どんな仕事をしているか、実は分かっていなかったことを痛感したといいます。
 A社長は、携帯に送られてくる日々の仕事の段取り、社員の自覚といったことを思い浮かべながら、社内の改善すべき点を考えたとき、図らずも思い浮かんだのはBさんでした。
 つまり、「もしかして我が社でいちばん効率的に働いていたのがBさんだったのでは」と思い至るようになったというのです。と同時に、我が社は自分が思っているより、効率的に働けていないのかもとも。Bさんは残業なしに他の社員と遜色ない仕事をしていたのですから、実際そうだったのでしょう。
 そこでA社長はBさんに仕事の進め方について説明を求めたそうです。
 すると、A社長は思いもよらないものを見せられたそうです。それはBさんのノートで、そこには、効率性向上に特化したノウハウがびっしりと書き込まれていたのです。
 いずれにせよ、この一事がA社長の仕事に対する評価、進め方を再考する確かなきっかけになったそうです。
 以来、A社長が取り組んだのは、Bさんを中心として、仕事の段取りの徹底的な見直しから進めたそうですが、その過程で目に見えて残業が減る一方、仕事の達成率が下がらなかったことに社員も驚いたそうです。

 A社長がいま感じるのは残業自体を減らす努力は、企業としての競争力を高める効果があるのではないかということだそうです。
 実際A社では、ムダな労働時間を減らし、浮いた時間を各人が新たな知識の吸収・経験に振り向けています。

 経営環境は日々変化しています。それなのに昔のままの労働スタイルでこれからも競争を勝ち抜いていけるでしょうか。 10年後、同じ働き方で通用するのでしょうか。
 付加価値の向上は、労働時間を延ばすことだけで達成できるものではないと考えます。
 残業をめぐるトラブルが多い昨今、そうしたトラブルを避けながら企業価値を高める方策を考える時期が来ているのかも知れません。 

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