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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

一歩下がることで、互いに未来志向になれる

人事・労務

 どんな企業も未来永劫順風満帆ということはあり得ません。窮地に陥ることはあります。そんなとき、どうするか。そもそも窮地に陥っているのは、その時点で解決法が見出されていないからです。それはもしかすると、過去にこだわってしまっているからかもしれません。
 ビジネスの現場において、「対立」という現象は決して珍しいものではありません。
 ここで言う対立とは、決定的ないがみ合いばかりを指すのではなく、「ちゃんとやってくれるだろうか」といった不信感、「何を言ってもムダだ」といった諦めまでも含みます。
 そうした関係が一度できあがると、解消するのは大変です。
 相手への非難が自分の立場を保持する基盤となってしまっているからです。
 「過去の枠組みに固執し、相手を黙殺、否定し、過去の枠組みを存続しようと図る」状態です。過去の延長線上にないイノベーションが求められるとき、過去の枠組みは、時に足枷となります。
 A社は北欧の雑貨を扱う会社です。デンマークで人気の雑貨ブランドE社が日本に初出店するに当たり、日本現地法人として設立されたのがA社です。 
 オープニングセレモニーは、盛大に行なわれました。その場は拍手に包まれ、そこにいる誰もが幸せそうでした。オープンと同時に人がなだれ込み、次々と商品が売れていきます。
 ところが、日を追うにつれ、本国スタッフと日本人スタッフの間で、店舗運営に関して考え方の違いが徐々に顕在化していったそうです。
 日本では、24日のイヴ、25日のクリスマス当日を過ぎると、クリスマス気分は一気にしぼみますから、クリスマス関連商品は商品棚から撤去されるのが当たり前です。
 ところがデンマークでは、12月20日頃から1月1日まで休暇を取る人が多く、その期間全体がクリスマス気分だそうです。ですから、25日を過ぎてもA社店舗の陳列棚には本国の意向でクリスマス関連商品が並んでいました。
 なぜなら、E社からショップのディスプレイを日本人スタッフが手掛けることは許されていなかったからです。
本国からデコレーターが派遣されており、彼女がショップのすべてのディスプレイをするというのがA社とE社の取り決めだったのです。
 要は、日本において稼ぎ時であるイベントが、本国デンマークではイベントと認知されていません。本国のスタッフはなぜそんなに日本人スタッフが気合を入れるのかがまったく理解できなかったのです。
 それでも、それなりのイベントであることに本国スタッフは理解を示し、本国から派遣されたデコレーターにもその旨を伝えたそうです。しかし、イベント前日、デコレーターは夕方6時に何のためらいもなく帰ってしまったそうです。
 デンマークでは残業の習慣はほとんどありません。もちろん、ショップのディスプレイは終わっていません。日本人スタッフがディスプレイをいじることは許されていません。
結果、商品が並んでいない陳列棚が散見され、どうにも中途半端なイベント感が展開されたといいます。
 こんなことが繰り返され、双方のスタッフ間で不信感が醸成されていきました。当たり前です。
お互いがそれぞれ自分たちの仕事のやり方が最善と捉えていましたから、お互いに違和感を覚えながらも、それを口に出せず、ストレスだけが溜まっていったのです。
 そして開店一周年のタイミングで本国CEOが来日するのに合わせて、日頃疑問に思っていることを公の場で明らかにしたのです。
 そこには本国スタッフと日本人スタッフがすべて揃っていました。
 その場でAさんは日頃の不満をぶちまけたのです。お祝いの席にはふさわしくない発言であり、場はざわつき、Aさんを押し止めようとする日本人スタッフもいたそうです。
 でも、Aさんはやめませんでした。なぜやめなかったかは、Aさんの最後の言葉に凝縮されています。
 「私たちは同じく会社を愛しているのに、どうしていがみ合わなくてはいけないのでしょうか」
 その後のレセプションは、一周年記念というにはいかにも不釣り合いでした。沈黙の時間が長く続いたからです。
 その沈黙が破られた後の光景は、さらに「異様」だったと言えるかもしれません。
 そこにいる全員がそれぞれ、「未来」を語り出したのです。
 過去のいざこざはさて置いて、より良い未来を皆で享受するためには、何をすべきかがその場で熱心に話し合われたそうです。
 異様な光景はまだ続きます。来日していたCEOが、「今後、半年の間に本国と日本スタッフの関係が改善されないなら日本店は撤退する」と宣言したのです。
 この言辞が功を奏したのか、それともAさんの発言が心を打ったのか、いずれにせよ、A社の業績はその後、上向きになり、双方スタッフの絆も強まったとの実感があるようです。
 ここから、私たちは何を感じ取り、あるいは学び取るべきでしょうか。「本音で話し合うことが大事」「商習慣の違いを乗り越えよう」ということでしょうか。
 それも重要ですが、お伝えしたいのは、「いかに過去の枠組みに固執し、相手を黙殺、否定し、過去の枠組みを存続しようと図る」状態を抜けて、未来志向に至るかということです。

 どんな企業内でも、例えば営業部とマーケティング部が「なんで売れない商品を作るんだ」「売れない原因を人のせいにするな」といった対立です。
 ちょっとしたきっかけで、仕事に関わる相手を否定してしまうことはありがちです。自分の立場が保持されるからです。ただ、そうした態度は決して良い関係を生みません。
 過去の枠組みに固執し、相手を黙殺、否定し、過去の枠組みを存続しようと図ることこそ最も安易な対処法です。至るところに蔓延しています。一歩下がることを知らないからです。そうすることが不利になると「過去の経験」が囁いているのです。
 しかし、そうではありません。一歩下がることで、互いに未来志向になれるのです。

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