新型コロナウイルス感染症は、企業活動に大きな打撃を与えています。感染症の影響を受けた「withコロナ」の暮らしの中で、一体、どのような物やサービスの消費が増加し、もしくは減少したのでしょうか。
経済産業省の「商業動態統計調査」と総務省が行っている「家計調査」から、外出自粛期間を充実させるものやサービスの消費が好調であることや、具体的に何が消費されているかといったことが分析できます。
感染症は企業経営に影響を及ぼすと考えられます。しかしながら、そうした中でも堅調に消費を伸ばしているものやサービスもあるということが、統計データを組み合わせることで、見えてきます。
消費者目線に立った商品・サービス作りの必要性は、よく聞かれます。それが顧客満足を生み、業績向上に直接つながることを企業は良く知っているからです。しかし、その大切な「消費者目線」がどこまで社員一人ひとりに浸透しているかは、ときに疑問です。顧客満足がいつの間にか自己満足になっていないかをもう一度見直してみる必要があるのではないでしょうか。
どんなビジネスであっても、そこには消費者がいます。消費者がいなければビジネスは成り立ちません。
ですから、消費者が何を望んでいるかを正確に把握することは経営を行なう上でとても重要です。そして、消費者の身に立つというのは、「顧客満足」という考え方で置き換えることができます。
顧客満足とは、どれだけ企業が消費者の立場に立てたかの尺度であり、それは商品・サービスの売上に直結します。
A社はアウトドア関連の製品を製造・販売している会社です。創業して18年になります。A社長をはじめ社員の多くが登山経験者、アウトドア愛好者ですから、最初はストックやアイゼンのカスタマイズをしていました。今では登山装備はもちろん、キャンプなどで使い勝手の良いアウトドア用品もラインナップに加わっています。
使う人の気持ちが分かった商品作りで売上を伸ばしてきました。
順調に成長してきたようにみえるA社ですが、これまでにピンチがなかったわけではありません。売れると見込んだトレッキングシューズがまったくの空振りで、大量の在庫を抱え、開発費の回収さえできなかったことがありました。
敗因はいわゆるオーバースペックでした。細部にこだわった造りで、もちろん性能は文句なしでしたが、価格があまりに高くて消費者から敬遠されてしまったのです。
起死回生の策は、女性向けの商品開発だったそうです。
実際、社員が週末に軽い山登りに出かけると、これまでとは違った雰囲気の若い女性登山者を見ることが多くなったとの印象を受けていました。
この流れをビジネスチャンスと捉えて、女性向けのアウトドアウェアの開発に着手することになったのです。
女性向けウェアの開発という方針が決定したことで、A社精鋭メンバーによるプロジェクトチームが結成されたそうです。
女性向けの商品開発ですから、当然チームの中心にはベテランの女性社員が据えられました。商品開発、営業に実績のある男性社員が脇を固めます。
A社独自のカラーを出すことが眼目とされました。そうして、機能とファッション性を兼ね備えた商品というのがコンセプトとして浮上したのです。
保温性や柔軟性といった機能に関しては、A社はこれまで培ってきた経験がありますからお手の物です。
ここにこれまでにはなかった色のバリエーションを加味して、A社初めての女性に特化した商品ができ上がりました。ところが、試作品を小売店などの関係各所に見てもらうと、評価が良くありません。正確には、男性からは概ね高評価だったのですが、当の女性からは数多くの意見が噴出したそうです。
シルエットが良くない、色がいまいち等と色々ありましたが、要は「可愛くない」ということでした。
もともとA社は体育会系の気風がある会社でした。そして、会社として成長した今でも、社員の男女比は8:2と圧倒的に男性優位という事情がありました。
ですから、新商品の開発に加わった女性社員も、A社の常識やイズムにいつのまにか染まっていたことは否めません。
それは否定すべきことではありませんが、今回は悪いほうに出たということでしょう。
そこでA社長は、「ならばいっそ、普段A社イズムから離れたところにいる女性の事務スタッフを商品開発の中心に据えてみたらと、考えたそうです。
A社長は肚を決めて、今回のプロジェクトのチーム作りを大幅に変更することにしました。
試作品の改良点は18カ所に及んだそうです。これには小売店の女性社員の意見も反映されています。
どんなふうに改良されたかというと、ウエストを絞る、ファスナーの引手を角ばったものから丸みを帯びたものに変更など。また、機能に関しても、防水性をもともとのものよりワンランク落としてその分価格を下げる提案がなされました。
A社長もさすがに機能を下げることには抵抗がありました。
しかし、女性の目線からすると完璧な機能より、必要な機能でより低価格であることが、重要なのです。しかも、今回は全面的に女性社員に任せようと肚を決めたのですから、A社長は我慢しました。最終的に、彼女たちの意見が反映された試作品ができ上がったそうです。最初と同じく各所の反応が集められました。好意的なものが多かったようですが、A社長は一抹の心配が湧いてくるのを抑えられなかったといいます。
ところが、A社長の不安をよそに、A社の新商品は大ヒットを飛ばしました。いくつもの雑誌に掲載されたほどです。
街中でも自社の新商品を着ている女性を目にするようになって、A社長は心から嬉しく思う反面、こんなことを思うそうです。「ニーズに忠実であることを忘れていたな」。
もともとA社は自分たちが満足する道具を手作りするところから始まった会社です。その原点を突き付けられた思いだったといいます。
女性が使う商品ならば女性がいちばん分かるという当たり前のことがわかっていても、できていなかったのです。
A社の事例は、「消費者のニーズに忠実に」と言いながら、その体制が取れていないという、どこの会社でも起こりうる事例です。
例えば、お年寄りをターゲットにしながら、当のお年寄りの意見よりも、自分たちの「きっとこうだろう」という思い込みを重視した商品は世の中に数多くあります。
この視点を取り入れ、改善することであなたの会社にもA社の事例のようなチャンスが起きるかもしれません。自社のサービス・商品をもう一度見直してみてはいかがでしょうか。