6f62966b1de45c12514a6c6fa30f94fb_m-1
赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
整備、評価・処遇制度の構築など、人に関わる分野から経営を
サポートいたします。
社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

競争が厳しいからこそ協力する

経営

 競争が厳しいからこそ、企業間で何らかの協力関係を築こうとする動きが生まれるものです。
 一人でやるより大人数、一社よりも数社で協力したほうが大きな成果が生まれる可能性は高いでしょう。その際、使い古された言葉ですが、win-winの考え方は重要です。
 信頼という何事にも代えがたい基盤を形づくってくれるからです。その関係性は企業間だけでなく、企業と消費者の間にも適用されるものです。
 新規事業立ち上げや既存事業の拡大を、自社1社だけで行うことには、限界があります。外部の企業といかに組むか、すなわち、アライアンスが大切となります。
 特に、経営資源が不足しがちなベンチャー企業や限られたリソースで新規事業を立ち上げようとする中小企業にとっては、なおさらです。
 売上・利益を生み出す事業には、必要となる要素がいくつかありますが、それが足りない時も、外部企業とアライアンスをすることで補うことができます。変化が激しく、競争が激化している今日、事業展開のスピード・アップをし、成功確率を高めるためには、アライアンスを積極的に活用していくことが大切です。

 企業間の競争がますます激しくなっている昨今ですが、それとは逆に協力関係を築く動きも活発です。
 競争が激しいからこそ協力関係が生まれるとも言えます。
 アライアンスというと厳格な協力体制をイメージしますが、そこまで厳格ではなくても十分に企業間の協力に効果はあるようです。

 A社は旅館を経営する会社です。旅館があるのは古い歴史のある温泉地です。
 ところが、歴史に慢心した結果でしょうか、観光客が一昔前の半分にまで減ったという現実がありました。
 A旅館は温泉地のなかでも歴史のある温泉宿でした。
 この旅館の跡取り息子がA社長でしたが、子供の頃、薄暗い旅館の建物が嫌で仕方なかったそうです。
 そんな思いを抱えながら、家業に対してA社長は基本的に否定的でした。
 その後数年のうちに、温泉地全体の観光客の数はどんどん減っていき、A旅館の宿泊客も目に見えて少なくなっていきました。一日のお客さんが数組という日も珍しくありませんでした。
 このような中、大学進学を機にA社長は東京へ出たのです。
 大学4年間をつつがなく、そして気ままにA社長は過ごしました。こんな生活がいつまでも続くような気がしていましたが、いつしかA社長にも卒業という現実が迫ってきました。
 ここでA社長は家業を継ぐことはせず、どこかに就職することもせず、ある地方の自治体が募集していた農業就業制度に応募して、野菜作りを一から学ぶという道を選んだのです。
 真夏の太陽の下、あるいは冷えきった空気の中で働くという経験は、A社長にとって新鮮でした。

 A社長の行く末を変えたのは、農作業にも慣れた頃、仕事終わりに仕事仲間に誘われて訪れたあるレストランの存在でした。
 周囲をぐるりと畑ばかりに囲まれたその店を見るなり、A社長は「こんなところでやっていけるのかな」と、期待どころか疑念ばかりが浮かんだそうです。
 店内に先客がいたことが、まずA社長には意外でした。そして出てくる料理がみんな美味しいことにまた驚き、見る間に客席が埋まっていく光景を目の当たりにして、もはや言葉を失っていたのです。
 失礼を承知でA社長は訊かずにはいられませんでした。
「どうしてお客さんがこんなに来るんですか」
 質問の意図を察したオーナーの答えは簡潔でした。
「どんなところでも、ちゃんとした仕事をすればお客さんは来てくれるものですよ」
 A社長が家業を継いでみようと決心したのは、今にして思えばこの言葉がきっかけでした。
 寂れた温泉宿でも人が呼べるかもしれないと思ったのです。

 地元に帰り、跡を継ぐ決心を伝えたA社長がまず考えたことは、これまで嫌っていた実家の旅館にどうやったら価値をもたせられるかということでした。
 当時、温泉宿は金融機関から多額の融資を得て、大型化する傾向が顕著になっていました。
 自社の宿にどう価値をもたせるかは未だ明確にはなっていませんでしたが、A社長はこの風潮に乗るのだけはやめようと考えていました。
 自分の目を覚めさせたレストランのやり方とは違う気がしたからです。
 大型化とは違うやり方となると、自然と答えは出ました。団体客ではなく個人客を相手にするということです。
 それまで稼ぎ頭だった宴会場を潰し、個室を増設しました。さらに、宿に歴史があることに目をつけ、過去の宿泊客にちなんだ客室を設けました。それは、歴史上の人物や文豪などです。
 つまり、A社長は物語という付加価値を宿に与えたというわけです。

 この改革は徐々にですが話題となり、A旅館への客足は戻り始めました。単価を上げましたから、資金的なゆとりも出てきたといいます。
 ただ、A社長がその頃までに痛感していたのは、温泉地全体へもっと人を呼び込まなければならないということでした。
 そこで実施したのが、宿での日帰り入浴と昼食を組み合わせた割安感のあるプランです。今では当たり前になっているかもしれませんが、泊まらず入浴だけというやり方は、当時画期的でした。
 さらに画期的だったのは、このやり方を温泉地全体で共有したということです。
 A社長がそうしたのは、地域全体への人出を増やすことに目的があったからです。例え自分のところだけでそのプランを実施して多少利益が出たとしてもたかが知れています。
 それより、温泉地全体で実施したほうが、話題的にも経済的にもインパクトは大きいとA社長は読んだわけです。
 実際、その案は受け入れられ、実施した結果、温泉地全体に利益をもたらすことになりました。
 地域全体で取り組んだことで、プランに広がりが出ました。どうせだったら、いくつかの宿の温泉を巡れるようにしようとの提案がなされたからです。
 A社長にとって最も大きかったのは、プランに広がりが出たことそれ自体ではなくて、新しい試みに地域全体が一体として当たっていくという基盤ができたことだったに違いありません。

 何事も他人の協力なしには成就しません。ですから、どうやって人の協力を取り付けるか、どうやって人を巻き込んでいくかは重大事です。
 その際、使い古された言葉ですが、win-winはやはり効果的です。その関係性は何より信頼を醸成します。そして関係性は事業者同士だけに適用されるのではなく、事業者と顧客・消費者との間にも適用されることをA社の事例は改めて教えてくれています。

Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.