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赤坂の社労士事務所

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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

社内コミュニケーション上の課題

人事・労務

 企業が円滑に業務を行なうには、円滑な社内コミュニケーションが不可欠です。日常的な仕事の場面すべての成否にコミュニケーションの良し悪しが深く関わっているからです。
 近年はそこにITを活用するのが当たり前になっています。現在、社内コミュニケーションにはどんな課題があり、それを克服するにはどのような認識の上でどのように行動したらいいのでしょうか。

 企業がビジネスに勤しむにあたって、社内のコミュニケーションがどのように機能しているかは非常に重要です。
 なぜなら、円滑なコミュニケーションにより情報がきちんと共有されているならば、目的に向かってムダは省かれ、業務が遂行される可能性は高くなるはずです。
 その逆であれば、目的が達成できないどころか、顧客に迷惑をかけてしまう恐れだってあります。
 また、良好なコミュニケーションは良好な人間関係がなければ、生まれませんから、業務においても良い影響を出す為には、社内コミュニケーションが不可欠といっても過言ではないでしょう。

 そのため、社内コミュニケーションを円滑にする一環として、注目されたのが、ITを利用したコミュニケーションです。近年では、多くの会社がITを取り入れています。
ITを利用した社内コミュニケーションは、グループウェア、イントラネット、社内SNS、社内ブログ、LINEなどのメッセージアプリなどに広がっています。また、FacebookやTwitterの一機能を利用する会社も少数ではありますが存在します。
 このようなコミュニケーションツールをどうやってうまく利用するかが企業の課題になっている一方で、ITではカバーし切れないコミュニケーションの課題をいかに解決するのかも大きな課題です。
 社員が増えるに従って社内コミュニケーション上の課題が噴出したというのはよく聞く話です。

 A社は早さと安さ、そしてカットの質を売りにした理容室、美容室を運営する会社です。
 カットにかかる時間は10分、費用は1000円、それでいて顧客が満足のいく仕上がりを提供するというのがA社のコンセプトでした。
 主なターゲットは男性です。特にビジネスマンは忙しくお小遣いも潤沢でない人が少なくありませんから、仕事の合間にパッと入ってさっぱりとして仕事に戻ってもらうイメージです。
 さらに、子供の散髪代にそれほどお金をかけたくないという親の要望に応える業態でもありました。
 そうした狙いは図に当たって、1店また1店というように店舗を増やしていきました。
 駅ビルの中に出店した店舗もあり、大いに繁盛したそうですから、当初の目論見通りに忙しいビジネスマンに支持されたと言うことができそうです。
 
 店舗の急拡張が始まったのは創業5年目を迎えたころでした。これまで第一号店の近辺を中心に新店舗を構えてきましたが、他府県へも積極的に進出しました。
 場所が変わっても、ビジネスモデルがしっかりしていれば、消費者から受け入れられるものです。 
 A社は順風満帆でした。ところがこの急拡大の裏で、A社の屋台骨を揺るがすような軋みが急拡大と匹敵するスピードで生じ始めていたのです。
 店舗が増えればそれだけ社員が必要になります。しかもA社の業務をこなすには技術が必要で、それはA社特有のノウハウもかなり含まれます。
 ですから、必要なのは新規店舗のオペレーションを任せられる人材と新人社員の教育係です。しわ寄せは圧倒的にベテラン社員が受けました。
 店舗の運営状況を見定めながら、一人ひとりのカット技術や接客態度にも目を光らせなければなりません。
 日々は移動から移動の繰り返しです。
 技術者の粗製乱造が目立ち始めたのもこの時期でした。未熟な者までお客さんの髪を触るようになっていったのです。

 未熟な技術者が一旦カットしたところを先輩社員が直すこともしばしばでした。時間も余計にかかります。こんな状況でクレームが出ないわけがありません。
 そればかりか明らかに売上も落ちました。ところが一方では、そんな状況でも店舗の拡大は会社の方針として否応なしに進んでいったのです。
 ますますベテラン社員に負担がのし掛かりました。「会社は俺たちを人間扱いしていない」「死ぬまで働けというのか」、これが当時の彼らの本音です。
 こんな言葉を残してベテラン社員の多くは去って行きました。
 事ここに至って、ついにA社長は会社のありさまを正しく受け止めることを迫られたのです。急がれたのは新人の教育制度とベテラン社員の業務オペレーションの見直しでした。
 教育に関しては、独自のカットスクールを設け、半年間で一通りのカットができるプログラムをスタートさせました。一般的な美容師であれば、技術を習得しカットが許されるまで何年もかかりますから、これはモチベーションアップにつながりました。
 また、業務オペレーションをこれまで以上にシステム化し、一店舗あたりの人員を削減しました。
 これによって業務は効率化され、店舗統括担当の社員を増員することができ、一人ひとりの負担は減りました。

 こうした一連の改革の甲斐あって、A社の離職率に歯止めが掛かったそうです。これで一安心と思いたいところですが、容易には改善しない一点がありました。
 会社が急激に成長していくときにありがちなことですが、当初のサービスの質を保てないという課題があります。それをすでにA社は経験し、対策も打ちました。
 店ごとにばらつきのあった作業工程を正すためマニュアルも作ったそうです。
 しかし、「思い」というのは容易には伝えきれません。
 A社長は既述の改革の他にも、店舗ごとのサービスのばらつきをなくそうとITを活用することにしました。

 部門長とのコミュニケーションを密にするため、定期的にネット会議を開いたのです。 元々が効率性を重視したビジネスモデルでここまでやってきたA社長ですから、こうしたことは最も得意な分野でありました。
 モニターを通してサービス向上を切々と訴えたのです。
 A社長が各部門の長に訴えかけ、そこからさらに店長、チーフ、一般社員へと伝わっていく構図です。
 のみならず、半期に一度はモニターの前に各店舗の全社員が並び、A社長が訓示することも恒例となりました。ここでは主に企業理念について語られたそうです。
 ところが、こうした施策はA社長が思ったような効果を上げることはありませんでした。
 思い悩んだ挙句にA社長がとった行動はとてもシンプルなものです。すなわちネットに頼るのではなしに、直接各店舗を回り、個々人の顔を見ながら言葉を交わすというものでした。

 A社のサービスが早さや安さだけでなく、当初のレベルを超えて質の向上にまで及んでいったのは、本当にそれからだったといいます。
 知識やノウハウというのは明文化でき、比較的簡単に伝えることが可能です。しかし、今回のA社のように、仕事に取り組む前提や、なぜ、サービスの質を上げなければいけないのかなどの思いは明文化するだけでは、足りません。
 そして、問題はその思いこそが社内で共有することが難しいということです。

 現在はITの技術が日進月歩です。その進化のおかげで遠隔地との通信も可能になり、格段に情報共有はしやすくなりました。そのことが企業が全国あるいは海外へと進出することを容易にしたという側面があります。
 しかしながら、どんなにITが進化しても、直接会って話すことの重要性は増しているのではないでしょうか。特に企業理念、つまり経営者の思いに込める熱はモニターを通してではなかなか伝わりません。生のコミュニケーションこそが思いを伝える手段なのかもしれません。

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