賃金には、給与(給料)、手当、賞与など、様々な形態がありますが、いざ「賃金とは何か」と正面から考えると、答はそう簡単でもなさそうなのです。
一見当たり前のことも正面切って問題にすると難しいこともあります。
この難しさを忘れて、ただ「何となく」扱っていると、思わぬ問題が突然わいて出ることがあります。
当たり前と思っている中に深刻なものが、賃金制度の中に潜んでいるのではないかということです。
その「深刻なもの」とは、ほとんど誰もが「賃金の安さ」に不満を持っているという現実です。
たとえば、A子さんは事務系の仕事を探していました。なかなか見つかりませんでしたが、半年の求職の後やっと採用されたのです。賃金は月15万円でした。採用が決まった時、A子さんは「ありがとうございます」と涙を流して喜びましたが、就職3ヵ月後にはもう「給料たった15万円なんです」と不満をもらしています。それが現実です。
人の欲望には際限がありません。
たとえば、A子さんを採用した総務部長は、当面15万円程度しか払えない。しかし頑張り次第でもっと上を狙える。頑張ってくれ!
と不用意に励ましています。
際限のない欲望に「喝を入れる」どころか、「この程度しか支払えない(申し訳ない)」と
欲望に油を注ぐ発言をしてしまっているわけです。
「少ないけれど」と言って賃金を支払うのは、「つまらないものですが」と言って贈り物を渡すのと同じくらい、美しい謙譲ですが、際限のない欲望の前には力を持ちません。まず、そのことを厳しく認識し、
不必要な期待を持たせない
もう少し業績が上がればもっと支払える、今はこれでがまんしてくれ、そのうちに…、そうした将来への含みで逃げる必要はありません。15万円なら15万円を注釈なしに支払えばよいのです。
では、将来を一切語ってはいけないのでしょうか。もちろんそうではありません。あいまいに語るのがいけないのであり、賃金制度を明確にして「制度で将来を明示」することは、逆に非常に重要です。
つまり、将来を語るなら「言葉」ではなく、「制度」で語らなければならないというのが「賃金マネジメント」なのです。漠然とした期待は個々人の勝手な幻想を生み、その幻想が失望や不満の種になりがちです。
もちろん制度化すれば、それで消えるほど「際限のない欲望」は単純ではありませんが、期待があいまいであるほど、欲望はコントロールできなくなることを理解すべきかも知れません。
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