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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

大切なことは最初から分かっていた

人事・労務

 企業の悩みとして、時間をかけて研修を行なっても「何も変わらない」「行動に結びついていない」ということがあります。いくら知識があってもそれが行動に結びつかなければ何の役にも立ちません。理念も掲げているだけでは意味がありませんから同じことが言えます。
 企業の悩みとしてよく聞くのは、「いくら教えてもなかなかできるようにならない」「社員が思うような働きをしてくれない」というものがあります。そこには「認識の違い」や「分かっていても実践していない」ということが起こっているのではないでしょうか。
 このような悩みは、企業活動のさまざまな場面で見受けられます。
 知識や情報は知っているだけでは役に立ちません。企業理念も行動に表れなければお題目に過ぎません。

A社は近年急成長を遂げているアパレルメーカーです。
A社長曰く、「中心的なターゲットは20代だが流行を取り入れたデザインの中にも上品さを感じてもらうことで10代から30代まで幅広く支持されている」のだそうです。
そうして今では、手に入れやすい価格帯のラインナップながらも、「ブランド」の一角を占めるに至りつつあります。
そんなA社を周りが放っておくはずがありません。
これまでネット通販だけで販売していたA社に各地の商業ビルから出店計画が舞い込むようになったのです。A社長は、今が事業拡大の時期かもしれないと考え、出店数を増やしていき、5店舗を展開するまでになりました。
売上は飛躍的にアップしました。しかし、そこには、事業を拡大しただけの苦労もありました。

 商業ビルへの出店はたしかにブランドの価値を高めるのに役立ちましたが、テナント料は一般的なビルに比べて割高です。賃料を賄うためにさらなる売上が要求されたのです。
また、出店数が増えれば当然、従業員が必要になりますから、社員の採用、研修、管理の手間が増えました。
 こういったことは会社成長において避けては通れないことですから、A社長に迷いはありませんでした。
 しかし、①賃料負担の増大、②社員増といった現実が、「いつの間にか組織運営に影響を与えるようになっていた」と、A社長は振り返ります。
 まず、①賃料負担の増大の影響は接客態度に現れました。当初、A社の接客は、お客様との「心地良い距離」を保つよう徹底されていましたが、この距離がぐっと縮まりました。
 つまり、「売る」ことに必死になったがために心地良い距離を壊してまで、積極的に売る姿勢を示すようになったのです。

 1店舗でやっていた頃は、社長の目が確実に行き届いていました。
 各人の売上が評価の一項目であったのは変わりませんが、「社員同士のチームワーク」「お客様をどれだけ喜ばせることができたか」といった項目も重要視されていました。
ところが、次第に目が届き難くなったことで、チームワークや顧客満足が軽視されるようになっていきました。
 本部の方針として現場に伝わってくるのは「売上アップ」ですから、社員はとにかく売ることに懸命になっていたのです。

 組織の拡大で店舗責任者が社員一人ひとりに目を配る時間が少なくなりました。
加えて、経営幹部が各店舗を訪れる頻度も徐々に間が空くようになったのです。
このような状況で、社員の働きぶりを評価する手がかりは、時折幹部が店舗を訪れた際の社員の様子、半期に一度の面接なども加味されましたが、何よりモノを言ったのは各店舗から毎日送られてくる報告書でした。
 そこには各社員の評価も含まれ、チームワークや顧客満足といった項目もありましたが、いざ評価するとなると、最も注目されたのはやはり売上だったといいます。
 そのとき、A社が最も欲していたのは売上であり、手っ取り早く評価するのに都合が良かったからです。

 高い評価を受けた社員は、他の社員よりも多いボーナスを受け取りました。昇進も早くしました。
 このことがさらに、「売上を上げる社員が誰よりも評価される」という考えを社員に埋め込みました。そして、こうした考えの蔓延は、各ショップでの接客態度や社員同士の関係にさらなる変化をもたらすようになったのです。そこにはチームワークなど望むべくもありませんでした。
 A社は内部から徐々に崩壊の道を辿りつつありました。売上が落ち始め、A社長はようやく変化に気付いたというわけです。
 なぜこのようなことが起こったのでしょうか。A社長によれば、「目先の利益にばかりこだわったから」です。そのために社員の評価は「売上中心」になっていきました。
そして、「売上を上げる社員が誰よりも評価される」という間違ったメッセージが社員に伝わっていたのです。
 そのことを認識したA社は時間をかけ、評価システムを改めました。売上という結果にばかり着目するのではなく、売上を上げるまでのプロセスを改めて大切にするようにしたのです。
 つまり、チームワークや顧客満足といったプロセスです。成果は徐々に表れ、社員同士の関係、社員と顧客の関係は改善されていき、それが売上を押し上げてきているそうです。

 「自分たちが大切に思っていたことを行動に反映できていなかった」というA社長の感想は、A社が大切にしていたことは「最初から」経営理念に示されていました。
 「顧客と社員と会社が満足できる関係」というのがそれです。
 それでも理念が放棄されてしまった理由に着目したいものです。その理由こそが重要だと思います。
 そのギャップを生み出す原因は会社の数だけあると言えます。A社の場合、目先の利益に飛びついたことが原因であることははっきりしています。
 そして、そのことが、会社としての思いと経営幹部陣の行動にギャップを生んだからではないでしょうか。
 「考えている」、「知っている」ということと、「行なう」ことは違います。理念や知識は、知っているだけでは役に立ちません。行動に活かしてこそなのです。

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