企業が持続的に成長していくためには、新たなことに挑戦し続けなければなりません。挑戦が成功すれば、また新たな挑戦が待っています。こうした成長の過程でどうしても必要になってくるのが、新たな人材です。
事業規模が大きくなれば単純に社員もそれだけ必要になりますし、挑戦の質が変わるなら変化に応じた人材が必要になります。
しかし、思うような人材を獲得するのはどんな企業にとっても至難です。
そこで必要な人材を獲得する為の独自の採用活動について考えます。
企業にとって、今後も業績を伸ばし、良質な会社として成長していくためには、新たな人材を獲得していくことは不可欠です。
その際、ほとんどの企業が面接を含んだ採用試験を実施しています。
まずはエントリーシートを志望企業に送り、書類選考が行なわれます。書類をパスした者が筆記試験と面接を受けて選考が進んでいくという流れです。
その後の面接回数に違いはあっても、手法、手続きにおいて、採用までの経緯に大きな違いはないと言っていいでしょう。
企業は同様の採用活動をして、同様の悩みを抱えています。
募集時の課題は「採用基準を満たす候補者が集まらない」が圧倒的多数です。「候補者の数が集まらない」も考え併せると、質量ともに候補者が集まらないというのが悩みの中心です。
同じ悩みを抱えている会社は多いはずです。
A社は主に企業のPRを業務としています。いかに素晴らしい商品、サービスを開発しようと、それが知られなければ売れようがありません。そして意外かもしれませんが、自分の会社を外に向かってアピールすることを不得手とする会社は実は多いのです。
A社は地方規模、全国規模のマスコミ対応はもちろんのこと、その後の具体的な販路拡大のお手伝いまで含めてこれまでやってきました。
A社長は会社のさらなる飛躍を企図していました。
そこで重要になってくるのが新たなる人材の採用です。A社はここ数年新卒採用を続けていますが、思ったような成果を得られていないというのが実際です。
例えば、ほがらかで誰とでもうまくやっていけそうだと思っていた人が、ひとたび入社してみると強情で我を押し通したり。あるいは、根性があると見込んだ人が入社後3カ月もしないうちに「辞めさせてください」と告げてきたり。
そうした空振りが続いて、そろそろ新規採用の準備をしなくてはいけない時期が近づいてきました。
高校の同窓会の案内が届いたのは、ちょうどその頃でした。時期が時期だっただけに出欠を迷いましたが、A社長は結局、出席の連絡をしたそうです。
A社長に出席を促した要因がありました。A社長はクラシック音楽が好きで、夕食後は1時間ほど音楽に耳を傾けるのが常でした。
同級生のなかにオーケストラの一員になった者が今回の同窓会に出席するというのです。せっかくだからオーケストラの話を聞いてみたい、そんな思いがA社長の背中を押しました。
そして当日は、同級生との再会を果たし、オーケストラの話を存分に楽しんだのです。
話が思わぬ方向に向かったのは、オーケストラの一員として採用されるまでの苦労に話題が及んだときでした。
オーケストラの採用試験は、A社長が知っているものとはまったく別物でした。
そこでは面接官と応募者が言葉を交わすどころか、お互いの顔を見ることもないそうです。番号で呼ばれた応募者が部屋に入ると、そこに応募者のための椅子が一脚だけ置かれており、面接官は仕切りの向こう側にいるのだそうです。
課題のなかから演奏曲を指定するのは、応募者と仕切りの間にいる代理人です。
応募者に許されているのは演奏することだけで、一切の発言は禁じられています。
面接がこうした形式を取られている理由は、性別や容姿に選考が左右されることを完全に排除するためです。演奏が基準に達しているか否か、それだけがすべてなのです。
こうした話を聞いてA社長が痛感したのは、A社には「こういう人材が欲しい」という明確なビジョンが欠けていて、そのために選考のための明確な基準もやり方もなかったということです。
ただ優秀な人材が欲しいという漠然とした思いだけがあって、面接のその場その場で、良さそうだと感じる応募者を採用してきたというのが実際のところでした。
A社長はPR会社の人間に求められる能力を、表現力だと思っています。対象となる商品なりサービスの良さを的確に伝えることがすべてだからです。
表現する方法は言葉によるコミュニケーション、文章力、絵や写真いろいろありますが、何らかの表現方法に秀でている人というのが第一の選考基準となりました。
問題はその選考方法です。
そこで書類で基本的なスキルの有無を確認の上、面接試験では、すべての応募者にまったく同じ質問をすることにしました。
これなら応募者なりの表現方法が見られるし、応募者の性別や容姿によって質問が変わり、選考基準がぶれることもありません。
次いで求めるのはチームワークを機能させる能力と考えました。社内だけでなく、社外の見ず知らずの人たちともチームで作り上げていくというのがA社の仕事です。
そこでA社長は、選考に残った応募者を複数集めて、チームで料理をする様子を観察する試験を行なうことにしました。
チームワークはもちろん、段取り、同じ食材からどんな料理を完成させるか、その盛り付けまで、料理には求める能力のすべてが詰まっていると考えたからです。
最終面接はA社長が行なうというのは以前と同じですが、このやり方を実践してみて本来A社が求めてはいなかった人材が入社してくることはなくなったのです。
A社に入って楽しそうに働いている新人を見るにつけ、A社長は会社に合った人材が入社してくれることはお互いにとって幸せなことであるし、その逆はお互いにとって不幸であることをつくづく実感しているそうです。
「良い会社でなければ良い人材が集まらない」という卵が先か鶏が先かという議論に似た言い伝えがあります。
良い会社を作るために良い人材が欲しい、良い人材が集まらなければ良い会社はできない。一体どこから始めるべきなのかと頭を悩ませます。
しかしこれは、どっちが先というわけではなく、同時に進めるべきなのだと思います。どんな会社でも、良い会社になりながら、良い人材を採用しているのです。
ですから、新しい会社も歴史がある会社も、大きな会社も小さな会社も、その段階、それぞれが置かれた状況に応じた人材を採用するための工夫や努力は等しく必要です。
ただ、各社を取り巻く環境によって、「優秀な人材」の意味合いは違ってくるはずです。
また、業種によって、個々の会社によって必要としている人材は違うはずなのに、世間の採用方法をただ流用していたなら、そこにミスマッチが生じても何ら不思議はありません。自社にとっての「優秀な人材」を明確にし、そんな人材を獲得するための独自の方法を試してみるのもいかがでしょうか。