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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

権限委譲と裏の目標

人事・労務

 世の中に変わらないものは何一つ存在しません。そうした中で企業も成長するために変化を求められるのは必然です。しかしながら、本気で変わりたくても、なかなか変われないという企業は多いのではないでしょうか。多くの企業が、それを阻む原因に気づいていないのです。

 個人にしろ、組織にしろ、変化の必要性を感じている方たちは多いことでしょう。しかし、変わることの難しさを感じている方たちも同じくらい多いのではないでしょうか。
例えば、ダイエットを考えてみましょう。ダイエットを試みたことがある人は多いと思いますが、目標まで辿り着く前に挫折してしまったという人もまた多いはずです。
挫折してしまった理由は何なんでしょうか。
「とにかく意志が弱い」ことがダイエット挫折の原因だとよく言われます。
しかし、変われない、変えることができないのは「意志が弱い」からではなさそうです。

A社は化学品の原料を扱う専門商社です。国内外のメーカーから原料を仕入れ、化学品メーカーに販売するのが主業務です。
このA社で、最近異例の人事があったそうです。
38歳のBさんが香料原料部の部長に就任したのです。A社における他の部長職は、全員が50歳を超えています。

 40歳を前にしての部長職就任は、いかにBさんが優秀であるかの証と言えましょう。ただ、Bさんには自分で設定したにも拘らず思うに任せない課題があったといいます。
 それは、「権限委譲」です。
 優秀なマネージャーならば誰でも承知しているように、チームのメンバー全員のスキル、知識、時間を最大限に活用しようとすれば、適切な権限委譲は欠かせません。
 上手く権限委譲がなされれば、メンバーは成長のチャンスが得られるし、チームの仕事の質も高まります。また、各自が本来やるべき仕事に集中できるということもあります。
 もちろん、Bさんもこうしたことは承知していましたし、
自分に権限委譲の能力が不足していると認識もしていました。だから部長就任に当たって、自分の課題として設定したのです。

 ところが、事態はBさんが思い描いた通りには進みませんでした。つまり、権限委譲がうまくできなかったのです。
 Bさんは権限委譲の必要性を強く認識しながらも、部下に任せても良さそうな仕事を手放さず、自分で大量の仕事を抱え込みました。
のみならず、すぐに新しい仕事にも手を出し、さらに仕事を増やしています。
 今では、仕事を大量に抱え込み過ぎたせいで、仕事の緊急性と重要性に応じた時間配分にも支障をきたしています。
 そこでBさんはあるメソッドを試してみることにしたそうです。「免疫マップ」を導入したのです。
 免疫マップとは、第一枠に「改善目標」、第二枠に「阻害行動」、第三枠に「裏の目標」を綿密な面談を通して書き記していく手法です。
 注目すべきは、第三枠の「裏の目標」です。Bさんは改善目標として「権限委譲」を掲げ、そのための努力もしながら同時に改善目標を妨げる行動も取っていました。
 それは、綿密な面談で明らかになったのですが、Bさんがそれまで公に認めることがなかった「裏の目標」があったからです。

 Bさんは権限委譲を進めたいと「本気」で望みながら、同時に「他人に依存せず、万能でありたい」と願っていたのです。
 これは、右足でアクセルを踏みながら、同時に左足でブレーキを踏んでいるような行為ではないでしょうか。
 Bさんが本気で変革を望みながら、同時にそれを阻害するような行動を取っていたのは、どういうわけでしょうか。
 そこに「裏の目標」があったからです。
 それは平常、当人に認識されることはありません。
 当人が認めたくないものであるからです。
 しかし、それを当人が認識することなしに、改善目標は決して達成されません。阻害行動は「裏の目標」が淵源であるからです。

 人には「免疫システム」が備わっています。
 つまり、外界からの異物に対して、防御機能を発揮するのが免疫システムです。実は変革も同じです。変革も異物に他なりません。
 それが自分で望んだものであってもです。だから、人は無意識のうちに変革に対する「阻害行動」を取るのです。
 ですから、個人にしろ、組織にしろ、本当に変革を成し遂げようと思うなら、阻害行動に対して対症療法的に対処するだけでは不十分です。
 その奥にある「裏の目標」にまで踏み込んでいかなければ、真の変革は成し得ません。目標達成に対し、阻害行動を起こさせる「裏の目標」を知ることが大事です。
 Bさんも自分の「裏の目標」を突き付けられたときは愕然としたといいます。
 しかしながら、それを正面から受け止めない限り、自分たちが本当に望んでいる変革は成し得ないのかもしれません。

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