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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
整備、評価・処遇制度の構築など、人に関わる分野から経営を
サポートいたします。
社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

正当な評価の効用

人事・労務

 新入社員の退職率は753とよく言われます。3年以内に退職する割合が、中卒の場合には7割、高卒で5割、大卒では3割ということです。採用、再雇用にかかるコストはかなりのものですから、経営者としては、その理由をぜひ知っておきたいところです。

 退職理由としては職場の人間関係によるものが上位に上げられています。いかに人間関係が大事かが分かります。他にもいろいろな理由がありますが、ここでは離職理由の1つ「昇進・評価が不満だった」に注目したいと思います。
 社員の採用にはかなりのコストが伴うものです。そのリスクを避けるために、社員を正当に評価すること、その表現方法、そしてそれがどんな効果をもたらすかを考えてみます。

 A社はアウトドア商品のメーカーです。斬新なデザインと消費者の小さなニーズにも細やかに応えた商品作りで、これまで一定の支持を得るのに成功してきました。
 ただ近年は、かつての売上に届かない年が続いており、一時期の勢いが失われつつあることは明らかでした。
 売上の減少はもちろん会社にとって深刻な事態ではありましたが、一方で、A社には他にも放置しておけない問題があったのです。それは、近年の「離職率の高さ」でした。

 この危機に際して、A社長が採った方策というのが新たな総務部長の獲得でした。
 もちろん、そこには前任者の定年というタイミングもありました。しかし、内部の者をスライドさせるのではなく、外部から新たに人材を迎えるというのがA社長の選択だったわけです。停滞ムードを破りたいとの想いがあったのだと思われます。
 多くの応募者の中から選ばれたのがBさんでした。Bさんは技術者としてだけでなく、管理者としての実績とA社への熱い想いがBさん獲得の決め手でした。
 さて出社初日、意気揚々とA社の門をくぐったBさん、自分の思い描いていたA社のイメージとの違いに驚くことになります。
 何しろ「社員の存在感がない」というのが第一印象でした。それぞれが仕事に取り組んでいるようですが、「それなり」という感じです。社員同士の会話も少ないようです。

 BさんにはA社の雰囲気が予想外でした。実態をつかむためにBさんは社内の様子を2週間ほど観察したそうです。
 すると、社員の仕事をきちんと評価する儀式は一切見られませんでした。これはどうしたことかと、よく言葉を交わすようになった部下に尋ねてみると、「二代目になってからこうなんです」と話したといいます。
 Bさんが知っていたA社の社風は先代のものだったというわけです。
 実際、現社長が経営を受けついでからしばらくは、社員評価も行われていたようです。

 A社長は先代以上の売上を上げることばかりに躍起になり、適切な社員評価は疎かになり、やがて部下任せとなり、ついにはその習慣は形骸化していったようなのです。
 これでBさんは自分がすべきことを明確に自覚しました。かってのA社の美風を取り戻すことです。
 手始めは、急に会社を休まざるを得なくなった社員のフォローをした同僚の働きをみんなの前で称賛することでした。
 同僚の事情を慮り、自分の時間を削ってまで余計に働いた社員の思いやり、献身を「正当に」評価したのです。
 当の本人も「どうして」という反応だったそうです。ですが、Bさんはそんなことはお構いなしです。「実績」がそんなの気にするなと言っていました。その後も、Bさんはこれはと思った社員をみんなの前で称賛していったといいます。
 「正当に」評価された社員の反応は明瞭でした。楽しそうに仕事をしているのです。
 決め手は、これまでの不都合を解決する画期的なアイディアを提案した社員Cさんに対しての称賛でした。

 Bさんは社内プレゼンの場で、その提案を聞いたとき、「特許級だ」と即座に反応しました。
 事実、そうだったからです。同席のA社長も同じ反応です。
 実はA社では、Bさんの入社時もかっての報奨制度がかろうじて生きていたそうです。
 しかし、その実態というのが、例えば勤続10年を感謝する記念品が、勤続13年目の社員に届いたりしていたというのです。「勤続10年ありがとう」のメッセージ付きで。しかも郵便で。記念品を受け取った社員の心中はいかばかりだったことでしょう。
 A社から社員が去っていくのに理由がなかったわけではないのです。

 仕事に対する正当な評価ほど社員を喜ばせる報酬はありません。その社員の存在意義に関わるからです。ただその分だけ、不当な評価、あるいは成果が無視されることほど社員を悲しませることもないのです。
 上司や経営者は、部下の仕事をちゃんと評価する、認める、褒めることの重要性を再度認識すべきではないでしょうか。
 きちんと評価され、認められ、褒められれば、会社に行くのが楽しくなります。そんな社員が会社を辞めるでしょうか。彼らはきっと会社に貢献しようと全精力を傾けるはずです。必ずある、褒めるべき社員の成果を見直してみてはどうでしょうか。

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