6f62966b1de45c12514a6c6fa30f94fb_m-1
赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
整備、評価・処遇制度の構築など、人に関わる分野から経営を
サポートいたします。
社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

勘違いな俺様社員

人事・労務

 A社では毎年5名程度の新卒社員を採用しているのですが、今年の採用は順調だったようです。
 しかも、ひとりは誰でも知っている有名大学を卒業していますから、近年にはなかったことと、社長も大いに期待するところがありました。
 それがB君です。上司となる課長は、社長から「よろしく頼む」との声をかけられており、これには課長も「大事に育てないと」と気を引き締めた経緯があったということです。

 今年の新入社員に対する期待は大きく、中でもB君はその前評判から期待されていました。
 ところが、当のB君の気持ちはだいぶ違っていたようです。B君は自分がA社に入社すること自体、納得いっていないところがあったのです。というのも、志望の会社にことごとく落ちた結果A社への就職だったからです。一流大学卒というプライドもありますから、「何で俺が」という気持ちが入社後もあったようなのです。

 ですから、B君としては同期をどこか見下しているところがあったようです。
 研修中もなにかとリーダーシップを取りたがり、意見が分かれた際には、自分の意見をどこまでも押し通そうとします。最後には「どうしてこの論理が分からないんだ」と言わんばかりだったそうです。
 しかしながら、そうした姿は先輩社員にはむしろ頼もしく映っていたようです。
 やがて、「俺がいちばんできる」という態度が先輩社員たちへも顕在化し出し、それを課長の「大事に育てないと」の思いから多少のことには目をつぶってきたやり方が助長したのかも知れません。

 先輩社員にやたらと食ってかかるようになり、たしなめようものなら、不機嫌さを隠そうともしなくなったそうです。
 段々とB君が周囲から浮いた存在となっていく中で、新人も重要な仕事の一部を任せられるようになってきました。
 既存顧客に向けた新商品促販キャンペーンが進行する中で、B君が任されたのは新商品の概要を2枚の書類にまとめることと、数十件に及ぶ先方担当者とのアポ取りでした。
 課長自ら指揮をとったのですが、どうにもB君の働きがはかばかしくないことは傍目にも分かりました。

 概要の作成は訂正を求めても反応が悪く、やっと提出されたと思ったら、言ったところが直っていない。「何で俺がこんな仕事をしなくちゃいけない」と思っていたのかも知れません。
 肝心のアポ取りも進んでいないようで、事情をきいてみると、「先方がいつもいない」「伝言を頼んでも返信がない」などと、まるで自分は悪くない、責任は向こうにあると言わんばかりです。結局、B君の現時点での実態は、自分の実力を過信し、失敗は他人のせいにするばかりの勘違いな俺様社員でしかなかったのです。
 これを怒鳴る代わりに課長は、改めてこのキャンペーンの目的と重要性、そこで期待されるB君の役割を説明した上で、仕事の内容と日程をお互い確認したそうです。
 ところがそれでも、課長の目にはB君の仕事が進んでいるようには見えません。それでいて、同僚には偉そうに上から目線でアドバイスをしたりしているのです。
 社長からの「よろしく頼む」がブレーキとなっていましたが、さすがにもう我慢できませんでした。
 「人の世話は自分のケツをふけるようになってからにしろ」と課長の一喝が部屋中に響いたのでした。

 それからというもの、厳しくB君に指示を出していきます。
 課長のアポ取りはというと、B君にしたら、まさに神業だったに違いありません。自分が声を聞くこともできなかった相手との面会の約束を次々とまとめていきます。
 手本を示された後に自分でやってみると、今度は言葉遣いに事細かな注文がつきます。    しかし、言われた通りにやってみると、不思議にアポ取りがうまくいきます。さすがにB君も考え込んでしまったようです。
 決定的だったのは、課長に同道しての得意先回りでした。誰もB君を見ようとはしません。
 商談の終わり際、「うちの期待の新人です。目をかけてやってください」と課長は深々と頭を下げたのです。

 会社への帰り、何かを決意したようにB君が声をかけてきましたが、その声は日頃からは想像できない、小さいものでした。
 「課長、すみませんでした」
 「どうしていいか分からなくなってきました」
 「お前はきっとできる人間だよ。ただ、自分の周りにいる人に敬意をはらわなければいい仕事はできないと思うぞ」
 その後のB君は同僚が戸惑うほどの変貌ぶりで、どんな仕事もバカにすることなく、周囲と協力しつつ最後までやろうとする気持ちが出てきました。その姿は何とも楽しそうだということです。

 自分の実力以上に自分を評価する度合いが、B君の場合は強過ぎたのかも知れません。
 しかしながら、そうした傾向は多かれ少なかれ、誰もがもっている性向なのだと思います。
 ですから、伝えるべきは時に厳しいやり方であっても伝えるのが、上司や先輩の責任でしょう。

Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.