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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

同族経営に必要な規律

経営

 同族会社と聞くとどんなイメージをもつでしょうか。もしかしたらあまりいいイメージではないかもしれません。、「身内の利益が優先される」というイメージも拭い切れません。しかし、同族会社には長く続き、敬意を払われる会社もあります。どうしてこのような差が生まれてしまうのでしょうか。

 同族会社にはこんなイメージをもっていないでしょうか。「身内だけが利益を独占するシステム」「親族というだけで重職に就ける不公平なシステム」。
 しかし、それは一部分に過ぎません。
 実に資本金1億円未満企業の約97%が同族会社です。ですから、立派に経営をしている同族会社もあれば、身内の利益の確保ばかり走る同族会社もあるということです。
 
 A社は圧着および接着加工、ポリッシング(研磨)を専門にする製造業者です。高精度な研磨と圧着・接着は精密機器に不可欠で、A社は技術力に定評があります。
 業界の先端を行く企業というのがA社の一面であるなら、「家族経営」というのがA社を特徴づけるもう一つの側面です。会社の発展とともに工場を拡張し、社員も大幅に増えました。
 ただ、経営に直接携わるのはA社長およびその親族に限られていましたから、「同族会社」というのが、よりA社の実情に合った呼び方であるかもしれません。
 創業40年あまりが経って、世代交代が行なわれようとしているというのがA社の今です。

 A社長の長男Bさんは15年前にA社に入社し、甥にあたるCさんは10年前に入社しています。彼らは各部門の管理職を歴任してきましたが、その経歴はもちろん、将来A社の経営を担うことを見据えてのことです。A社長はBさんに会社を継がせたいと考えていましたが、A社長はそのことを明言したことはありませんでした。
 しかし、本人ばかりか周囲も既定の路線と捉えていました。
 すべてが順調に進んでいるはずでした。ところが、その順調とは頭の中での拵え事にすぎなかったのです。

 Bさんを社長に就任させる前、BさんはA社長の下で商品開発担当の取締役を務めていました。その頃、Bさんの頭を悩ませていたのが、A社が飛躍するきっかけとなった研磨工具の処遇でした。A社長が開発した商品です。
 しかし、Bさんが商品開発を担当するころには時代遅れとなり、作れば作るだけ赤字という状況でした。ごく当たり前の判断をするなら、その商品は生産中止です。社内でもそうした声が大きくなっていました。
 ところが、Bさんが当該商品の生産中止を決断するまでには実に2ヶ月もの時間がかかったのです。

 どうしてそんな状況に陥ったかは、第三者であれば容易に推察できるはずです。赤字の垂れ流しと分かりつつも、父親自らが開発した商品を生産中止とすることがBさんには忍びなかったからです。ただ、この分析は「第三者」であるから容易にできるのでしょう。 Bさんも一刻も早く生産を中止したほうがよいと分かっていたはずです。分かっていながら、それができない。そして、A社長自身もBさんの気持ちを察し、後押しができなかったのです。
 また、こんなこともあったそうです。普段は協力して業務に当たるBさんとCさんです。Bさんが新たな商品開発を提案すれば、Cさんは顧客の声を根拠に的確な改善点を指摘します。 
 フィードバックの繰り返しで、商品には磨きがかかりました。
 そうした中でA社長の引退が現実味を帯びてくると、Cさんの態度が微妙に変わってきたそうです。Bさんの提案に否定から入り、社員の前で自分の考えを滔々と語り、まるで自らを誇示するようであったといいます。

 そもそも、A社長は同族会社に対して肯定的に考えていました。ですから、息子であるBさんに会社を継がせるということは当然の流れでした。
 BさんがA社に入社した頃は、ちょうど、同族会社による不祥事が頻発する時期と重なったそうです。しかし、家族の絆を信じていましたし、「うちの会社は大丈夫」という自負もありましたから、息子に継がせようという思いに変わりはありませんでした。
 ところが、いざBさんを経営者の立場におくというタイミングになって、迷いが生じてきたそうです。
 あらためて考えてみると、「多くの同族会社が存在するなかで、敬意を払われる企業と、身内のトラブルで自滅してしまう企業の違いはいったい何なのだろう」ということです。そう考え出したA社長は、同族会社について調べてみました。
 すると、成功している同族会社には厳格な規律があるということに気づいたそうです。

 A社長は他にもさまざまな同族会社の規律を目にしました。そこに共通しているのは、「甘さ」を徹底的に排除するということでした。
 ここで自分は大きな勘違いをしていたことに思い至ったのです。家族だから絆が強いと前提してしまうと、そこにどうしても甘さが出る。
 家族だからこそ規律を厳しくして、甘えが出ない状況を作って初めて同族会社の強みが発揮されるということです。
 そう考えてみると、思い当たる節が多々ありました。Bさんが赤字商品を生産中止にしなかったのは、親子の絆に見えて、実は「甘え」でしかなかったわけです。
 また、CさんとBさんの予期せぬ諍いは、A社長が「誰がA社を継ぐのか」について、明確に伝えていなかったことに起因します。   
 そこが明確でないままにしていたからこそ、Cさんは、自分にもチャンスがあると思ってしまいました。
 その結果、気まずい関係性が生まれることになったのです。

 このことに気づいたA社長は、BさんとCさんを呼び出し、まずは誰が次期社長となるのかを明確に伝えたそうです。そして、三者が納得した上で、家族で経営をすることについての決め事を一つひとつ固めていきました。
 また、それとは別に月に一回、社員も含めた全員が集まっての会食を恒例としました。家族間のコミュニケーションも必要ですが、他の社員の理解も必要だと考えた結果です。
現在、A社では社員全員とコミュニケーションを図って気持ちの良い職場づくりに励んでいるそうです。

 会社が続いていくならば、いつか必ずどんな形であれ世代交代のときがやってきます。会社を継ぐのは親族なのか、それともそれ以外なのか。
 もし今、あなたの会社が同族会社でなかったとしても、次の世代交代の選択肢の一つとして、親族が会社を継ぐ可能性はゼロではないはずです。
 いずれにしても、しっかりとした規律を定めておくことが必要になってきますし、それが親族であるのならば尚の事です。
 その規律こそ、会社が長く続くか、それとも早々に没落するかを分ける一線になるのではないでしょうか。

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