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赤坂の社労士事務所

福岡市中央区赤坂の社労士事務所「赤坂経営労務事務所」の
COLUMNです。
労働・社会保険の諸手続や助成金活用、給与計算、就業規則の
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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

モチベーションという経営課題

人事・労務

 仕事のやりがいをどこに感じるかは人それぞれですが、自分が貢献できたという実感と、スキルアップしたという実感を得られた場面に、大半の人がやりがいを感じているようです。
 しかし、これらの実感は一人で得られるものではありません。第三者からの「効果的で正しいフィードバック」があってこそ、実感できるものではないでしょうか。

 経営者にとって、社員のモチベーションをいかに向上させ、高いレベルで維持するかは重要な経営課題です。
 よく事業に不可欠な三要素として「ヒト・カネ・モノ」が挙げられます。この三要素の中で「ヒト」が最初に挙げられているのは、そもそも人がいなければ他の要素を活かすことができないからでしょう。
 そして、人が十分に能力を発揮するためにモチベーションは欠かせません。
 仕事のモチベーションは「自分が誰かの役に立っていることの実感」と「成長していることの実感」の2つの要素に分けられそうです。そして、それらの実感には他者からの働きかけが必要です。

 A社の周辺には飲食店が少なく、昼時になるとA社の社員が同じ店で食事をとることがよくあるそうです。
 グループで連れ立って行くこともあれば、予期せず顔を合わせることもあります。社員たちも、そんなときはことさら話しかけたりはしません。
 そして、その場所にA社長が居合わせることもあるようです。しかしそれも日常の光景であって、目礼だけですませます。
 もちろん、A社長自身も彼らの邪魔をする気は毛頭ありません。せっかくの昼休みですから社員が気軽に過ごしたいのは承知です。
 食事が終わると昼休みの残りを各々自由に過ごします。スポーツ新聞を広げたり、社員同士で談笑したり、様々です。
 しかし、数年前からA社長にはこの食後の過ごし方でちょっと気になることがありました。それはスマホをいじる社員が格段に増えたことです。
 例えば、社員同士同じテーブルに座っていてもそれぞれがスマホに夢中で、話すこともなければ目を合わせることもありません。以前とは違うこの光景にA社長は違和感を覚えたのです。

 A社長は昼食帰りのあるとき、さり気なく社員たちに問いかけたそうです。
「そんなに夢中になって、スマホで一体なにを見ているんだ」
 返ってきたのはニュースサイトだったり、SNSだったりしましたが、最も多かったのはゲームとの答えでした。
 そこで、A社長は重ねて社員に尋ねてみたそうです。
「何がそんなに楽しいの」
 この質問に対しては、社員の答えはまちまちでした。「ついやっちゃうんです」「なんか、もう習慣ですかね」というものもあれば、「ステージをクリアできるのが楽しいんです」というのもありました。A社長はそんなものかと思うしかありませんでした。
 すぐそばにいる人間とコミュニケーションも取らずにゲームをしていることを、世代や時代のせいにするのは簡単です。しかし、A社長はそうする代わりに自社に活かすことにしたのです。
 ヒントになったのは、社員の「ステージをクリアするのが楽しい」という言葉です。
 ゲームはステージごとにレベルがちょっとずつ上がっていきます。クリアすればそれは自分のスキルが上がったことの証であり、賑やかな画面がクリアを讃えてくれます。

 これは、社員にとって肯定的なフィードバックとなります。A社長は、自社の社員を称賛する機会やフィードバックの頻度について考えてみました。
 A社の場合、半期に一度の人事評価のための面談がフィードバックの機会になっています。もちろん、日常的な業務報告の場で社員を褒めたり叱ったりはありますが、会社としての公式な機会は半年に一度です。ゲームと同様に夢中にさせるためには、物足りません。
 さらに、これまでA社長はあえて社員をあまり褒めなかったことと向き合わざるを得ませんでした。褒められたことに満足して向上心がなくなってしまうことを危惧しての行動でしたが、社員にとって自身の成果や功績を実感する機会は半年に一度のみになってしまいます。
 もし社員が職場で得られない承認欲求をゲームに求めているとしたら、それはあまりに情けないことです。

 こうしたことに気づいて以来、A社長は人事評価の機会を2ヵ月に一度に増やしました。
 そして、良い判断、良い協力、良い働きをした社員に対しては、できるだけその場で褒めるようにもしました。なぜなら、ゲームはそうだからです。
 そうした行為を繰り返すうちに、褒め方にもコツがあることがわかりました。「よくやった」というよりも、「資料がまとまっていて分かりやすかった」など、より具体的な言葉を使うことです。
 その方が社員はずっと嬉しそうな顔をしました。
 しかし一方で、無闇に褒めすぎるのはむしろ逆効果になってしまうこともわかりました。
 というのも、自分でも過剰かなと思うほど社員を褒めると、それが常態化してしまって、フィードバックがないのと同じであることに気づいたのです。
 どんなことをしても褒められるというのは、どんなまずいやり方でステージに挑んでも、クリアができて褒められるということです。
 それは社員のスキル向上の機会を奪い、ひいては社員が自信を得る機会をも奪う行為であるとA社長は気付いたのです。

このような経験を通して、いまA社では社員を適切なときに適切なやり方で褒める文化を形づくる試みが、会社をあげて行なわれているそうです。
 ゲームに夢中になるのも、仕事への熱意を持ち続けるのも、本質的には同じなのだと思います。
 やるべきことが明確に示され、継続的なフィードバックがあり、スキルの向上が実感できることが大事です。
 社員が本来もっている情熱を仕事に生かすも、あるいは他で消費させてしまうも、経営者次第ではないでしょうか。

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