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赤坂の社労士事務所

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社会保険労務士法人赤坂経営労務事務所
代表社員 大澤 彰

成長が止まったとき

経営

 会社には成長段階に応じて立ちはだかる「特有の壁」があるといいます。すべての会社に当てはまるわけではありませんが、売上高や社員数、あるいは創業年数がある段階に差し掛かると、これまでの右肩上がりの成長がピタリと止んでしまうというのです。
 成長期」には定期採用を急激に伸ばす傾向が見て取れます。となると、創業期の思いを同じくしたメンバーの中に、いきなり思いの共有が不十分な社員が入ってくるということです。このあたりに成長期に特有のジレンマがあり、かつ成長段階に応じて立ちはだかる「特有の壁」の正体があるかもしれません。

 A社は創業8年の若い会社です。
 代表を務めるA社長は大手のIT系企業から独立してA社を立ち上げ、以来ひたすら突っ走ってきました。売上は毎年順調に伸びて、当初は3人だった社員が50名近くにまで増えています。
 ここまでは至って順調だった、はずです。ところが、売上の点からいえば成長を続けてきたA社ですが、ここ1年ばかり、ピタッと伸びが止まってしまったのです。

 最初は景気のせいと単純に思っていたようです。しかし最近は、単純にそればかりとは思えなくなってきているそうです。
 ある日、営業のテコ入れの意味合いで、新規の取引先に同行しました。
 担当者から話を聞いて、実際にシステムの現状を確かめてみるとA社長にはいかにも古く感じられました。しかし、担当者としては今のシステムを大きく変えることに抵抗があるらしいことが話の端々に窺われます。
 慣れもあるのでしょうが、A社長はその会社が自ら成長の機会を放棄しているように感じられて仕方なかったそうです。
 なぜなら、疲弊したシステムに固執しているからです。
 と、このように考えてA社長はハッとしたそうです。
 というのも、A社自体もそうなのではないかと直感したからです。

 A社は3年前、社員が30名を超えた時期に、組織をいじっています。それまではA社長を中心に、全員が営業部員であり、全員が開発部員であり、という感じだったそうです。
 つまりは、誰もが何でもやる体制だったのです。
 しかし、社員が30名を超え売上も安定してくると、さすがにこれでは会社としてお粗末じゃないかということで、A社長を頂点としたピラミッド組織を構築したのです。
 しかし、実際に成長が止まっているのですから、この組織が機能していないのは明らかでした。
 そもそも、A社長が組織の在り方に疑問を感じたのは、売上がある時期を境にピタリと伸びなくなったからです。

 そうなった分かりやすい原因は、A社長が営業に出る機会が少なくなったからです。決して自惚れではなく、実際A社長が会社一番の営業マンだったのです。
 A社長が最前線の営業マンであることをやめたのは、「社員を育てたい」との思いからです。A社長が常々思うのは「自分の代わりができる人材がいれば」ということです。
 それを実現するために、現場に出ることを控え、組織をいじったのです。しかし、「自分の代わり」は実現できなかったのです。
 ということは、組織作りと組織に対する自分の関与の仕方が間違っていたのではないか。それがA社長の結論でした。

 以前と今の組織でいちばん違うのは、A社長がトップに立ったということでした。
 かってA社長は会社の中心に存在したというイメージです。それを既存の企業社会のあるべき組織図を安易に援用してしまったために現状があると気付いたのです。

 ですから、A社長は自分の思いを社員と共有できる組織を目指そうと考えたそうです。 それは自分が「トップ」に立つ組織ではなく、「中心」にいるような組織でした。
 下ではなく、周りに幹部を配置し、日々自分の思いを伝えたい。それと同じ構図を幹部の階層でも再現することができれば、無駄な行動が減る(生産性が上がる)のではないかと考えたのです。

 即刻、A社長は組織のイメージの再変更と共に、各自がその目的を汲んで行動してもらいたい旨を全社員に伝えたそうです。
 A社長が語った目的というのは、停滞している売上をもう一段上のステージに上げることに他なりません。ただ、それはA社長の会社に対する思いとワンセットでした。
 つまり、A社の経営理念を先に進めたいとの思いです。
 理念を実現するためには売上を上げていかなければなりませんし、売上を上げるためには理念の強い共有が必要というのがA社長の出した答えでした。両方がうまく結びつく組織であるべきとA社長は考えたのです。

 だから自分はトップではなく中心にいることにしたとA社長は説明したのです。
 それは「この会社はこれからだ」との宣言に違いありませんでした。
 実際、A社長はメール、SNS、ツイッター、朝礼、社員への声掛け、飲み会の実施など、コミュニケーションを深めるための手段であれば何でも利用したそうです。こうして、A社は新たな一体感を醸成していったといいます。
 まだまだ満足はできませんが、自分の周りに自分の代わりができて、またその周りに自分の代わりが育っており、各々が「社長だったらどう考えるか」を意識しているとA社長は感じています。

 伝えるという行為は、しつこいと思えるほどやって、ようやく効果がある場合があります。経営理念などはその典型と言えるでしょう。
 そして、「思いを共有する」ために最適な組織の在り方があるはずです。それは企業によってまちまちなのかもしれません。
 その在り方を模索し、決断するのも経営者の仕事だと思われるのです。

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